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『眼鏡外した方が可愛い』?
そんな言葉は幻想だ。眼鏡を外したら美少女だった、なんてフィクションの存在でしかないし、自分がそうだなんて思ったこともない。
ましてや学校一の有名人、そして学校一のプレイボーイと言っても過言ではない同級生の言葉では信用も出来ない。
『思ったこと言っただけ』?
どちらもドラマや小説でいい加減使い古されたような常套句。プレイボーイが聞いて呆れる。そもそも、そんな言葉を私に言って何の得があるのかさっぱり分からない。
眼鏡を掛けて、制服を着崩すなんて以ての外で、休み時間ともなれば本を読んでばかりで、絵に描いたような地味子の私に彼がそんなことを言うメリットは一切ない。
どうせまた、男子がよくやる罰ゲームの類だとは思うけれど人を巻き込むのは止めてほしいと思う。
「いたー!」
大きな声がする方を見れば、件のセリフを吐いた張本人が廊下の向こうから走ってくる。
何を隠そう、これはついさっきの出来事。放課後の教室、私がたまたま眼鏡を外した所に居合わせた彼のセリフ。いきなりのことで面食らってしまったが、すぐに黙殺して読んでいた本を返しに図書室へと向かったのだ。
童顔で、かっこいいというよりはかわいくて、交友関係は男女も年齢も関係なく広くて、人懐こい性格は時にチャラいと評されるがそれでも学内ではちょっとした有名人で人気もある。
そんな彼が、わざわざ私を追いかけてこの場所に来たというのか。
「よかったー、本持ってたし図書室行くと思った」
「……なに?」
これ以上特に話すこともないんだけどなぁ、と思いながらも、すたすたと廊下を歩く私に彼は付いてくるのだから仕方ない、ついでに聞いてみることにした。
「なにって。俺の言ったこと無視してさっさと行っちゃうんだもん。途中で後輩に声掛けられたの必死で断ってきちゃった」
「……」
「え、そんな嫌そうな顔しないでよー、俺のこと嫌い?」
「……」
相当あからさまに顔に出した自覚はある。だいたい、その情報を私に言う必要があったのか甚だ疑問だ。さらに言えば、声を掛けられたなら私など放っておいてそっちに行ってほしかったくらいだ。
そもそも、彼が悪い人じゃないと理解はしていてもかわいい自分を分かっていてやっているようなその喋り方や仕草は、正直あまり好きとはいえなかった。
「なんでそんなことしてんのって、思ってるでしょ」
「まぁ、なんか、らしくないなとは思う。私には関係ないけどさ」
「関係ない、か……だよね、そりゃそうだよね」
急に無くなった、横の気配。ぽつりと言った彼の一言が何だか寂しそうで、思わず振り返った。
そこには、少し俯き加減に立ち尽くしている彼。いつもの明るい彼とは、明らかに違っている。
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