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なんか声がして、肩をちょっと揺らされた。酒のにおい。かすかに、かぎ覚えのあるいいにおいもする……。
「日置? 寝てんの?」
うお、村田! えっ、なんだ、俺今マジで寝てた?
「……お、おう、おかえり」
顔を上げると、村田は露骨に眉をしかめてた。連絡もせずこんなとこで待ってたんだから、当然だ。
「飲んでたのか」
立ち上がり、手に持ったままだったスマホをジーンズの尻ポケットに突っこむ。村田は黙ってうなずいた。酔いがさめてしまったらしい、不安げで不審げな、警戒の表情。
凌太は、凌太は……。俺が、凌太だったら……。
ああダメだダメだ、考えんな、俺!
「とりあえず、中入れて」
すさまじい勢いで沸騰する思いを、なんとかぐっとこらえる。ここでぶちまけたら、みんなパーだ。
「……なんの用?」
村田はドアを開けようとしない。できればこの場で追い返そうってのか?
悔しいけど、友達でさえあんまり部屋に入れたがらないヤツだから、想定内の反応。このシチュエーションで俺がやることなんて、一つっきゃねえし。
ごめん村田、俺もう、こうするっきゃねえんだ。これしか思い浮かばねえんだ。好きなんだ、好きだから抱きてえんだ。
「凌太にはしょっちゅうヤらせてんのかと思うと、気狂うわ」
やっぱりダメだった。思ったことがまんま、言葉になっちまった。どす黒くて、鉄の玉みたいに硬い言葉の塊。
でも村田は、まるで全部分かってたみたいに、表情を動かさずちょっとだけ目を伏せた。俺をたまらなくさせる、繊細な仕草。
見ちまった。見ちまったんだよ、見るまでは凌太とはなんもないと思いこんでた俺がおかしいんだろうけどさ。
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