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初の全国ツアー、千秋楽間近の東京公演中、マチネとソワレの間。他に誰もいない楽屋で、疲れてぼんやりしている村田の肩を、凌太が後ろから揉んでやっていた。そこまでは、珍しいことじゃない。だけど、次の瞬間。
後ろから村田にするっと腕を回して抱くと、凌太はごく自然にそのままキスした。入り口付近に立ってた俺に鏡越しに見られてるとも知らず、少しの間キスを交わすと、あとは何事もなかったように二人して黙って並んでた。
そこにいたのは、俺の知る凌太じゃなかった。いかにも慣れた仕草がエロくて、見たことのない男の顔をしてた。村田の顔は見えなかったけど、そういう関係になってある程度長そうなのは、普通に受け入れてることからしても明らかで。
ああ、そうだったんだ。ぽつんと、思った。その時は、ただそれだけ。
しばらくしたら波が来たように、そりゃもういろいろ考えた。考えすぎて嫌になって、もうやめようと思っても、それはいつでもどこでもやってくる。たちまち俺の思考を支配する。
そして今、ここにいる。
俺達ふたり、サバンナの肉食動物と草食動物みたいだと、村田は言った。意味が分からずあとで凌太に訊くと、食べ物が違うってだけで、絶対に分かりあえない。人生が重なるとしたら、食う食われるのその一瞬だけ。凌太はなんで分からないんだとばかり、俺にそう解釈してみせた。
なら俺は、肉食動物になるしかねえ。分かりあうことさえできないんだと、そう言われちまった。そしたらもう、村田を食って肌を重ねて、一瞬でいいから力ずくでも俺のモノにするしか、ねえじゃんか。
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