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答えずに相変わらず黙ってる村田の頬にふれると、少し汗ばんでいた。キスする瞬間、唇がぴくりと動いて俺を拒否する。構わずにきつく身体を触れあわせたまま、両手で顔を包みこんで思いっきりむさぼった。
むさぼるほどに膨張していく俺の熱を避けるように、村田の腰が引ける。その腰をぐっと引き寄せ、俺のそこを村田の腰に押しつける。
「この前までガリガリだったのに、だいぶ筋肉ついてきたな」
村田は今稽古中の舞台のために、身体を鍛えていた。もともとスリムな身体にほどよく筋肉がついて、まさに細い身体で俊足な草食動物だ。
目を伏せ、俺を見ない。なにも言わない。それでいい。それで構わない。俺はただひたすら、気が済むまで食い尽くすだけだ。そうだ、恋人ごっこがしたいなんて、思うべきじゃねえんだ。
立ったまま、何度も髪をなでキスを繰り返す。髪は、長い方がよかったな。村田には長い方が似あうし、色っぽい。指先で髪をもてあそぶ楽しみもなくて、少しつまんねえ。
「好きなんだ」
すいっ、と紙を引き出すように、自然にそう言ってた。まっすぐで、弾むようにやわらかい声。俺にもこんな声が出せるなんて。少し、驚いた。
やっぱり俺は恋人ごっこがしたい。ただ犯すように抱くなんて嫌だ。
「え?」
村田が、なにか言った。でもかすかすぎて、聞き取れない。
「いつ? いつ、見た?」
まっすぐに俺を見る瞳。力強く、まぶしく。きれいだ。きれいすぎて、残酷なくらい、きれいだ。
「……まあ、いいや。一回だけだからな」
さらっとなんでもないことのように言う、その言葉が一撃で俺を打ちのめす。ほんの少し、微笑んでさえいる。こんなこと、村田に言わせちゃいけなかった。気づいても、もう遅い。
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