13人が本棚に入れています
本棚に追加
きもだめし。
「はー?クラスで一番ビビりのお前が、俺様を怖がらせるだって!?」
クラスのジャイア――ではなく、ガキ大将ポジションの男子、テツジ。彼は小学生にしては大柄な体で思い切り胸を張って、僕のことを大笑いしてくれた。
いじめられている、というほどではない。でも僕とテツジは頗る相性がよろしくない。本ばっかり読んでいる大人しい僕と、球技が大好きで時間が許す限り外で友達と遊んでいる彼は真逆と言っても過言ではない。それはそれで仲良しになれるケースもあるにはあるだろうが、いかんせん僕達は揃って我が強いタイプだった。ようは、意地っ張りである。自分と違う価値観をなかなか認められないと言ってもいい。しょっちゅうぶつかっては、僕達はクラスのみんなをひやひやさせてしまう存在だった。
今回もそう。よりにもよって、僕が一番負けたくない相手に、唯一の弱みを知られてしまった形になったわけである。
本をたくさん読む僕だが、唯一ホラー小説だけはどうしても苦手だった。ホラーなドラマも、映画も、アニメでさえ見ることができない。とにかく“怖いもの”だけはダメだった。それ以外のことは割となんでも得意だし、小学生の割に博識だという自負もあるというのに。
で、それを知られたらいつものお約束通り、僕達は教室の中心で口論になってしまったのである。苦手な男子だけれど、何もテツジは悪い奴というわけではないことくらいわかっている。どちらかというと、やや強引なだけのリーダーといった具合だ。僕のことが嫌いなくせに、殴られたことは一度もない。自分の腕力や体格が小学生の中でも並外れていることを彼が知っているからこそだとわかっていた。そう、僕だって何も、彼に良いところがないと思っているわけではないのだ。
ただ、どうしても受け入れられないところが大きすぎるというだけである。本を読むより外で遊ぶ方が偉いと思っているということとか。怖いものが苦手な男なんてカッコ悪い、と大昔みたいな価値観を押し付けてくるところとか。今回も完全に、そんなテツジの“嫌な面”が表に出てしまい、僕を怒らせたと言っても過言ではなかった。
で、流れで言ってしまったのである。お前だって怖いと思うことは絶対ある、本物の恐怖ってヤツを知ったら僕のことを馬鹿になんかできなくなるはずだ、と。僕が何がなんでもお前に怖いものを教えてやるぞと。
完全に売り言葉に買い言葉だった。“本当に怖いもの”のビジョンさえぼんやりしていたというのに、一体何をやっているのやら、だ。
「そこまで言うならいいぜ、やってみろよ。今度の土曜日、三番地の墓場に集合な!時間は六時!」
「え」
「そこで、お前が肝試しの主催をやれ!俺をぎゃふんと言わせるような企画を立ててみろよ。俺がゴールできずに逃げ出したらお前の勝ち、最後までやりきったら俺の勝ちだ。頭のいい優等生のお前ならカンタンに考えられるよな?それくらいはな?」
僕が青ざめたのは、言うまでもない。墓場なんて、行くだけで足が竦むというのに。いくら主催する側と言ったって、そんなところで肝試しを開催するなら準備側も足を踏み入れないわけにはいかない。というか、むしろ参加者よりずっと長くその場で待機していなければいけない可能性大だ。
テツジはそれがわかった上で言っている。僕が怖くて、肝試しなんか開催できないと逃げを打つのを待っているのだ。
「なあに、お前一人で全部やれとは言わないよ。友達に協力してもらたっていいぜ、オバケ役はたくさんいたほうが怖いに決まってるもんなー!」
彼は余裕綽々で笑っている。それを見て、僕は恐怖よりもプライドが優ってしまった。
「い、いいぜ!やってやるよ!僕が肝試し開催してやる!怖くてチビったって知らないからな!」
最初のコメントを投稿しよう!