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「本物に見えるおばけで、不意打ちでびっくりさせられたら……相当怖い、と思う。あと、ただびっくりさせられるだけじゃなくて……後ろから延々と追いかけて来られたりしたら、恐怖で心臓破裂する!」
僕の十個上の兄は、子供の頃そういった映画を見たことがあるらしい。学校を舞台にしたホラー映画で、バケモノにひたすら追いかけられる内容であったというのだ。学校に閉じ込められて、グロテスクな怪物から逃げるなんて想像するだけで体が震えたものである。あれを再現すれば、相当恐ろしい思いを体験させることが出来ると思うのだが、どうだろうか。
「本物に見える……っていうか、ゾンビみたいにグロだったらマジ怖いと思う。あー、僕にも特殊メイクの技術とかあればなー」
「流石にそれは、そういうの得意な大人の人の手助けがないと厳しいよね。あと、お化けの足が速い方がいいんじゃない?テツジ君、うちのクラスでも結構足速い方だから、追いつくか追いつけないかくらいの速さは欲しいよね」
「じゃあお化け役はコータで決定だな。僕足遅いし、逆にクラスで一番速いの誰かさんだし」
「あのテツジ君を僕が追っかけるのかあ。それはそれでちょっと楽しいけど」
しかし、追いかけっこだけならそんなに長く間も持たないだろう。というか、肝試しのノルマを“特定地点まで行って何かを持ち帰る”ようなシステムにするのであれば、過剰に追いかけまくって彼をルートから外してしまうのはさすがにルール違反である気がしてならない。
つまり、追いかけっこはほどほどにしないといけないということだ。というより、コータは足は速いけれど短距離走タイプである。あまり体力がある方ではないので、長い時間追いかけっこさせるのは無理があるだろう。
「他に怖いものといったら、どこかに閉じ込められる……だな。特に真っ暗な場所に閉じ込められて……そこが虫でいっぱいだったりしたら……うっ」
思わず想像してしまい、僕はぶるりと体を震わせた。暗いところも苦手だが、虫の類も大嫌いな僕である。怖い、の方向性はだいぶ変わってしまっている気がするが。
「あ、これも怖い!閉じ込められた上で、天井か壁が迫ってきて潰されそうになるやつ!」
そして、ピン!と人差し指を立ててえげつないことを言い出すのがコータである。確かにそれも恐ろしいが、なんだかホラー的恐怖からはどんどんズレていってしまっているような。
そもそも実現可能ではない気がしてならない。
「それホラーか?コータ」
「あー、ダメかあ。ていうかそこまで大掛かりな装置作れないよね」
「本当に潰して殺すわけにもいかないし。ギリギリで止めるってなると安全面も必要になるし。……こうして考えると、本気で怖がらせるのってなかなか難しいんだなあ。よくよく考えると六時に集合じゃ、まだ完全に日が暮れてないからそこまで暗くないし……」
あの墓地は、中央に木造の小さな小屋がある奇妙な構造になっている。元々は誰かの私有地だったのが、そのまま相続の関係で誰のものかあやふやになってしまい、カンタンに取り壊すことができなくなってしまった――なんて話をちらりと聞いたことがあったような。
あの小屋をゴールにして、そこに一時的に鍵をかけて閉じ込める演出はできなくもないだろう。ただ、そこから先にできる演出がない。僕達が閉じ込めたとわかっていれば、テツジも“いずれ開放される”のがわかっているからさほど怖い思いはしないだろう。
正直、ここで完全に手詰まりだった。これ以上のアイデアは、あと数日ではとても思いつけそうにない。
「墓場の中にあるボロ小屋をゴールにして、ちょっとだけ閉じ込めて……あーあ、そこでなんか怖いものを演出できればいいんだけどな!本気で閉じ込められたと本人が勘違いした上、怪我しない程度に床が抜けて真っ暗なところに落ちるとか!そこが虫だらけだとか!壁迫ってくるとか!ダメだ想像はできるけど演出のしようがない!」
僕がやけっぱちに言うと、コータは呆れたようにけらけら笑った。
「取り敢えず追いかける役は頑張るから、ギリギリまでミズキ君も考えてなよ。何か思いついたら僕も言うからさ」
「うー」
とりあえず、お参りだけしておこう。僕は階段を登りきるとお財布を取り出し、ささやかなお小遣いの一部を賽銭箱の中に入れた。十円玉と五円玉が転がり落ちていく硬い音がする。正式なお願いの仕方などよくわからないので、とりあえず拍手をしてカランカランと鈴を鳴らしておくことにした。
「神様!どうか、テツジが本気で怖い思いをしますように!そして僕のことを認めて、馬鹿にしないようになりますように!!」
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