幸せ

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
一目惚れだった。 磯山くんというクラスの男の子を、入学した時からずっと無意識に目で追っていた。笑い方、話し方、全部に胸をときめかせ、その行動一つ一つに何度も恋をしていた。 来たる2月14日に備え、私は覚悟を決めた。手作りなんて、重いかな。などと思いながら、しばらく近所のショッピングモールのバレンタインコーナーを右往左往していたが、ええいままよ!と板チョコとラッピング用の箱を掴み、買い物カゴに入れた。 すると同時に 「あれ?何してんのー?」 と声をかけられる。聞き覚えのある声。私がバッと振り返ると、そこにいたのは、幼馴染の伸也だった。 「なんだあんたか‥。びっくりした‥!」 「え、なになに?バレンタイン用意すんの?」 「うるさいなぁ。あんたにはやらないよ!」 と言い、べーっと舌を出すと、伸也は「うげー可愛げのない女!」と顔をしかめた。 「なんだよ、本命?」 「そーよ文句ある?」 そう言うと、伸也は文句はないけどさ‥と呟き、言葉を濁した。 まだ若かった私は 「何?はっきり言ってよー」 と尋ねてしまった。伸也は 「あーあー!うるせーよ!」 と耳を塞ぎながら、「頑張れよ、ばーか!」と不満げにバタバタと走り去った。 「で?あんたはあの時どうして欲しかったわけ?」 頬杖をつきながら私はにんまりと笑う。 「はぁー?10年も前だろ、時効時効!」 「何よ、言いなさいよー。バレンタイン、俺も欲しかったーって」 と私がしつこくからかうと、「うげー。相変わらず可愛げのない女!」と言い、夫は私に向かってべーっと舌を出した。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!