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一目惚れだった。
磯山くんというクラスの男の子を、入学した時からずっと無意識に目で追っていた。笑い方、話し方、全部に胸をときめかせ、その行動一つ一つに何度も恋をしていた。
来たる2月14日に備え、私は覚悟を決めた。手作りなんて、重いかな。などと思いながら、しばらく近所のショッピングモールのバレンタインコーナーを右往左往していたが、ええいままよ!と板チョコとラッピング用の箱を掴み、買い物カゴに入れた。
すると同時に
「あれ?何してんのー?」
と声をかけられる。聞き覚えのある声。私がバッと振り返ると、そこにいたのは、幼馴染の伸也だった。
「なんだあんたか‥。びっくりした‥!」
「え、なになに?バレンタイン用意すんの?」
「うるさいなぁ。あんたにはやらないよ!」
と言い、べーっと舌を出すと、伸也は「うげー可愛げのない女!」と顔をしかめた。
「なんだよ、本命?」
「そーよ文句ある?」
そう言うと、伸也は文句はないけどさ‥と呟き、言葉を濁した。
まだ若かった私は
「何?はっきり言ってよー」
と尋ねてしまった。伸也は
「あーあー!うるせーよ!」
と耳を塞ぎながら、「頑張れよ、ばーか!」と不満げにバタバタと走り去った。
「で?あんたはあの時どうして欲しかったわけ?」
頬杖をつきながら私はにんまりと笑う。
「はぁー?10年も前だろ、時効時効!」
「何よ、言いなさいよー。バレンタイン、俺も欲しかったーって」
と私がしつこくからかうと、「うげー。相変わらず可愛げのない女!」と言い、夫は私に向かってべーっと舌を出した。
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