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4月
「ここが今日からお世話になる会社かぁ」
オフィス街の一角にあるビルの前で浦本陽生はぽつりと呟く。
すごく緊張している。場所はここか日付は今日か忘れ物はないか。
昨日同じ会社に就職する友人に確認したけれど······。
緊張で痛み出した胃を軽く撫でる。
内定が決まったのは、つい3ヶ月ほど前だ。他の一般的な学生と違って、就職活動を始めたのは大学四年生になってからだった。
それゆえに内定をもらえただけ奇跡のような出来事である。
「はぁ······」
ここで働くのが嫌という訳ではなくここ10年ほどで急成長した全国的に有名なお菓子メーカーfree! というあたりがまだ信じられなくて、入社初日だというのにため息がこぼれてしまう。
自動ドアをくぐると、大学が同じだった友人立岩樹が受付の前で立っていた。
「初日ってやっぱ緊張するわー」
気の抜けた声音で樹は言った。
『自由をモットーに』
『自分の力で世界を羽ばたけ』
大きなホールに入ってすぐのスクリーンに映るロゴと文字を見てまたため息を吐く。
自由を重視するのは良い。けれど自分の力でというのは実力主義の会社だと表している気がして、不安になった。
自分も何か社会の役に立ちたいと、そう思う。
けれど、自分に何ができるのか分からない。資格は持ってないし、特技があるわけでも大きな野望があるわけでもなかった。
自分はもともと、自分を表現することに弱い。あまり自分に自信がないせいもあるだろうか。
この会社も、樹に誘われて応募した。
しばらくすると、照明が消えて30代の男性が壇上に上がった。
ーfree! の創設者で社長の仙石響矢である。
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