視線 一

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視線 一

『一人暮らしの家屋に、焼死体? 男性の遺体を発見 焼身自殺の疑い』  以下は、男性が最後に会っていた友人の証言であるが、信憑性は低いものとされる……。 「はい、そうです。彼と会いました。一週間前? ああ、それぐらいだと思います。  彼は、坊ちゃん育ちで我が儘な奴でした。  一人っ子で両親に甘やかされて育ってね。ところがある時、両親が事故で死んじゃってね。資産家の親だったから、遺産がごっそり入ったみたいで悠々自適の一人暮らしですよ。仕事も辞めてしまったみたいですね。  友人関係?無いです、そんなの。私が知ってる限りでは、彼女もいないですね。  一人で遊んでばかり。鉄道が趣味でね、私もよく、遠くの駅まで行って、付き合う羽目によく合っていましたよ。  あの日、私は別の用事で外出中でした。彼の近所に来た辺りで、突然携帯が鳴ったんです。 『おい、遊びに来いよ。暇なんだろ?』  日曜だからって暇じゃないのに。こっちが怒ると、彼すぐ逆ギレするんですよ。渋々行く事にしました。後々面倒なんでね。  彼は鉄道模型に熱中していました。一人暮らしをいい事に、家中に鉄道模型を壁をぶち抜いてまで通してね、やたら自慢するんです。本当、嫌な奴ですよ。  玄関を開けると目の前に、品川駅。ライトグリーンの電車模型が走っていました。廊下に地下鉄。歩く時に模型を踏んずけてしまいそうで。邪魔でしょうがなかったです。 『おい、来いよ。新作が出来たんだ 』  奥から奴の声。また自慢話ですよ。  でも、彼が言うだけあって、本当、模型については凝っていましたね。鉄道だけじゃなくて、情景(ジオラマ)っていうんですか、ああいうの。周りの風景も再現しているんです。駅、踏切、建物とか。首都圏の鉄道を全部再現するって、あいつ、ほざいていましたね。
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