Judgement of Corruption

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Judgement of Corruption

流れる雲は空に浮かぶ月を隠しながら、流れていく。 普段は人でにぎわっているグラウンドも、夜になれば絶好の狩場となる。 男は足早に過ぎ去っていく雲を眺めながら、明日の天気を心配していた。 天気が荒れる前に、さっさと済ませよう。 そんなことを考えていた。 フェンスに囲まれたグラウンド、男は左手に金属バットを持って立っていた。 そのバットには、無数の釘が打ち込まれていた。 ボールを打ち返す遊具が男の手によって、ただの凶器と化していた。 両目から上は白いマスクで覆われ、ぎょろりと獲物を見据えていた。 今晩の獲物は、灰色のスーツを着た男だった。 白髪頭、骨と皮だけでできているように見えた。 「何のつもりだ?」 その声は震え、わずかに上ずっていた。 後ろ手に拘束され、その場に正座で座らされている。 そんなことは知らん。彼は小声で低くつぶやいた。 依頼主が殺せと頼んだから、殺すことになっただけだ。 その男は、界隈では処刑屋と呼ばれていた。 男に依頼をすれば、どんな者でも殺してくれるということで評判だった。 復讐からただのイタズラまで、彼はどんな者でも壊して回った。 目の前にいる人間も、恨みがこもったメールによって選ばれたのだった。 何行にも渡るその思いは、まさに復讐心のそれだった。 「お前、自分が何をしているか、分かってるんだろうな?」 男のことを殺し屋と呼ぶ者もいれば、サイコパスと呼ぶ者もいた。 殺人鬼と呼ぶ者もいた。正直、名前などどうでもよかった。 好き勝手に呼べばいい。 男は自身を犠牲にして人を壊す。ただ、それだけだ。 彼が絶対に人を殺せるのは、『送りバント』と呼ばれるスキルによるものだった。いつのまにか、そんな名前がつけられていた。 誰が呼んだかも分からない名前が、知らない間に定着していた。 『送りバント』と呼ばれているそれは、自分自身の記憶や体、財産などを引き換えにして、男の願いを一つ叶えるというものだった。 絶対にして、唯一無二のスキルだった。 ただ、彼自身はそれを誇りに思ったことは一度もない。 そのスキルの代償があまりにも大きすぎたからだ。 だから、男には幼少期の記憶もなければ、感情と呼べるようなものもなかった。彼の右腕は金属製の義手だし、体内の肺は一つしかない。 継ぎはぎだらけの体の彼は、さながら一種の抽象画のようであった。 全てが曖昧模糊で、部位を区別する意味さえ失われていた。 彼にとって、そんなこともどうでもいい話だった。 自分が何になろうが、関係のないことだった。 サイコパスと呼ばれようが、殺人鬼と呼ばれようが、彼は人を壊すだけの存在だ。 それ以上でもそれ以下でも、それ未満でもそれを超える存在でもない。 結局のところ、すべては他人の物差しによる測定であり、価値観による測量なのだ。だから、彼に具体的なものは何一つなかった。 語れるものもなければ、誇れるものもない。 何かを求めているから、男は人殺しをするのではないか。 依頼人の中には、彼の目的を考察する人間もいた。 高額の報奨金を得るために、人を殺しているように見えるのかもしれない。 顔の見えない仇がいるから、人を殺しているように見えるのかもしれない。 それが当たっているかどうかも、自分自身では分からない。 しかし、彼が人を殺す理由を挙げるとするならば、それは極めて単純なものだ。 確実にできるから、絶対にするだけなのだ。たったそれだけのことなのだ。 「……」 男は彼を静かに見下ろす。 彼は人ごみに紛れてしまえば、すぐに見分けがつかなくなってしまうような人間だ。 これといった特徴がない、普通を形にしたような人間だった。 こんなさえない奴を殺して、何になるというのだろう。 相変わらず、人間の考えていることはよく分からない。 しかし、高額の報酬はすでに受け取ってしまっている。 仕事を放棄するわけにもいかない。 男はずいと彼の前に歩み寄った。 彼は命乞いもせず、目を強くつむっていた。 覚悟を決めたということか。なかなかどうして、潔い人間じゃないか。 「悪く思うなよ。悪かったのは、お前の運の方だったんだからな」 また一言、ぽつりとつぶやいた。 男は釘バットを振りかざし、真っ赤な抽象画を描き上げた。
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