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「え……う、嘘……」
彼女の落胆の声がする。萎んでいく瞳孔と反比例して、涙がじんわりと沸き上がり、彼女の長い睫毛から頬へとなだからに伝っていく。
ぐさり、と心を刺される音がする。しかしこの程度で止めるわけにはいかない。
「嘘じゃないよ。もう一度言おう。
君にはもううんざりだ。側に居られても楽しくないし、迷惑だし、いいことなんてひとつもない。だから別れよう、そう言っているんだ」
「……嘘。だってあなたは、そんな……数日前まで、バレンタインのお返しには何がいいかって聞いてきたのに」
「そんなの覚えていないよ。
──いや、他の女と間違えて言ったかもしれないな。それで、なんて答えられたんだっけ?」
「ねぇ、笑えない冗談はもう止めてよ。だったら今、あなたはどうしてここにいるの? ここがどこだかわかってるでしょ?」
見通しのいい公園、見慣れた景色に沈んでいく夕日。
──きっとこれは、しばらく夢に出てくるな。
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