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「………………最低」
今にも溢れそうな雫を目にためて、こちらを睨んでくる。
「私だってそれなりに我慢だってしてきたのよ。友達と遊ぶだけだって、男の人がいたらあなたが不安になるかもしれないからって控えていた。
けどあなたが仕事の相手だからって飲み会に言ったりするのは、仕方ないことだからって堪えてきた。
──それなのに、今度は私を疑うの?」
知っている。
君が気を遣ってくれていたことも全て知っている。そしてそれに応えるように、僕もそれなりに気は遣ってきた。
それは互いが互いを思ってする心遣いというもので、それができている僕たちは、それなりに相性がいいと思っていた。
──だけどこうして、どちらかが疑えばその均衡は容易く崩れる。例えそれがフリだったとしても。
ここまでくれば売り言葉に買い言葉、あと一息だ。ずきずきと痛む胸を、静かに押さえる。
「そういう気を遣った所が嫌だったんだ。挙げ句こうして、気を遣ってあげたという上から目線をするじゃないか」
「それはあなたが疑ってきたから。
それより、『だった』ってもう過去形なの? まともに本音を話す気はないってこと?」
まだだ。まだ、あと一息だ。
「あぁ、そうだよ。叩いてくるような暴力女は御免だって言ってるんだ。
さっさと他の男にでも泣きついたらいい。『フラれました』って被害者|面《づら)して、慰めてもらいなよ」
彼女は涙目のまま、悔しがるような悲しがるような──あるいは哀れむかのような、ため息をついた。
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