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「この曲、この学校の校歌だったよね?」
私が校歌の始めの四小節を弾くと、
「違う。その曲、ウチのじゃない」
A子は後ずさりながらかぶりを振りました。
「どこなんだろうね、この高校」
私はとうとうA子にいじわるをしたい気持ちを抑え切れなくなり、わざと声を低くして言いました。
「高校じゃないよ。中学だって!」
A子は声を荒げました。
「あんた誰なの? こんなおかしい場所にいるのに、なんで笑ってるの? あんたお化けなの? 幽霊なの? というか制服も違うのに、どうしてあたし、今まで不思議に思わなかったの? あたし、おかしくなっちゃったの?」
A子がまくし立てるのを見て、私はそろそろ潮時だなと思いました。
「たくさん怖がってくれてありがとね。私帰る」
嘘偽りのないお礼の言葉を伝えると、
「どういうこと? ここから帰れるの?」
A子は恐る恐る聞きました。
「私だけね」
私はそれだけを答えて校歌の続きの四小節を弾きました。
それを合図に、筋肉が一瞬で弛緩したように重苦しい空気がとけ、普段どおりの音楽室に私だけが帰り着きました。
自分が流した噂が予想外の変化をしながら広がっていき、実際の現象が起き始めるのを目にするのはたまらない快感です。
噂から抜け出す方法は私のノートの中にしか書いてありませんから、巻き込まれた人たちがどうなったのかを想像するのも大きな楽しみです。
いい感じでぞくっとできたし、家に帰って新しい噂を考えようと思い、バッグを肩にかけて立ち上がった時、音楽室の扉ががらりと開きました。
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