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「人の声がすると思ったら、あなただったの。鍵閉めておいたはずなのに」
吹奏楽部の顧問の千代子先生でした。
「ごめんなさい。ちょっと練習したくて」
千代子先生は頭ごなしに怒る先生ではないと知っていたので、私は適当にごまかしてその場を立ち去ろうとしました。
「早く帰って勉強するのよ」
千代子先生はそう言ってため息をつきました。
「分かりました」と返事をして、千代子先生とすれ違った瞬間に私は気づきました。
鍵がかかっていたはずの音楽室に、私はどうやって入り込んだのでしょう。
そして、千代子先生は産休だったはずなのに、どうしてここにいるのでしょう。
背筋が寒くなった私は振り返らずに聞きました。
「あの、お子さんは?」
千代子先生は答えました。
「子ども? 目の前にいるじゃない」
心臓が跳ねました。
ここにいてはいけない。
怖い。
今すぐここから逃げ去りたい。
胃の中から何かが上がってくるのを感じました。
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