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王の前には櫃が運ばれた。
平伏したまま、それを見ていた廃世子は震えていた。
左右に並んだ文武百官は息を飲む。
櫃の蓋が開けられた。
「入れ」
王は命じたが世子は動かない。
「何をぐずぐずしておる、早く入れ!」
世子はゆっくりと立ち上がり、櫃に近付いた。
その時、
「主上、父上を許してください」
声の限りに叫び、飛び込んだ自分を衛兵は取り押さえた。
「世孫を連れ出せ」
暴れる自分を衛兵はしっかり捕まえ連れ出そうとする。
「主上!‥」
久しぶりに、“あのこと”の夢を見た。
父は弱い方だったのだろう。それに対し、祖父は強い方だった。
そう、強くなければ王になどなれないのだ。それゆえ、祖父は父にも自分にも厳しく接した。
祖父の思いに応えられない父は精神を病んでいった。そして、母や祖母、周囲の人々に迷惑を掛け通しだった。
祖父の前に出るたびに父は叱責された。反面、自分は祖父に褒められる。行いがよい、よく学んでいるといって。
いつしか自分は祖父に気に入られ、自分がきちんと祖父に応えられれば父は叱責されなくなった。自分は父のために多くを学んで祖父に応えられるよう努力した。そんな自分を父は愛しんで下さった。
父の精神は日増しに悪くなって行った。過ぎた放蕩と乱行を見かねた祖父は遂に息子を世子から廃し、罰として櫃に閉じ込めた。
十歳の時のことだ。
父が亡くなった後、前にも増して学び、そして武芸にも励んだ。心身共に強くなるために。
これは王となる自分の宿命であり、国と民のために必要なのだ。
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