はじまりはじまり

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「ありがと。いつもどおりのかっこいい仕上がりだね。さて、朝ごはんだ。今日はなんだろう」 「いってらっしゃいませ」  うやうやしく送りだされ、ロラン王子が軽快な足どりで廊下を進みます。  彼らの住まうエトワルン国は、温暖な気候や海山を擁する豊かな土地のみならずアストリカル大陸における最大国家の財力もあり、あらゆる食材に恵まれていました。  その宮廷料理人といえば腕も超一流。元来食べることが好きなロラン王子は毎食が楽しみでしかたありません。 「とくに卵料理が絶品なんだよなぁ」  数日前にだされた新作『オム・ラ・イス』なるもののふわとろ食感を思いだし鼻歌まじりで廊下をまがります。  が、それはたちまちゲッという蛙の悲鳴じみた声に変化し、ロラン王子は蝋人形のように動かなくなってしまいました。  そのはず、視線の先には天敵ともいえる実兄のレオン王太子の姿。ロラン王子としてはすぐさま踵を返したいところですが、ばちんと視線がぶつかった手前そんな非礼は許されません。  やむなく()を進め、頭をさげます。 「オハヨウゴザイマス兄上」 「ああ」  相槌をうつレオン王太子は、父親ゆずりの鋭い眼光に大国の嫡子らしい威厳をたたえ表情を変えません。そんなところもロラン王子の癇にさわります。
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