はじまりはじまり

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 その日の午後。ロラン王子は敷地のはしの離宮で、お茶の時間を楽しんでいました。  ここは先代王妃である王太后が晩年をすごすために建てられたもので、おばあさまっ子だったロラン王子のなれ親しんだ場所です。  贅をきわめたステラシオン宮殿や、幾何学模様につくりこまれた噴水庭園とは正反対のおもむき。こぢんまりとした簡素な建物からは田舎風の庭が眺められ、この国の言葉で休息を意味するロワンジルの名前どおりです。  現在は遺言で譲りうけたロラン王子の所有となっており、日中は大抵こちらに入りびたっていました。 「やっぱりお茶はブルネ産が一番だね。香りが違うよ」  のどやかな日射しあふれるテラスでは、ロラン王子が手ずからミルクをそそいでいました。一杯目はストレート、二杯目はミルクを入れるのが彼流です。 「ああ、平和って素敵だな。退屈はいやだけど、こうして毎日のんびり暮らせたら最高だよね。……むこうの庭園の薔薇が咲くのは、もう少し先だっけ」  軽やかに舞う二頭の蝶を見やるロラン王子。そばに控えるアルマンが、気ままな独言のとぎれるタイミングをみはからいます。 「殿下、今朝の話ですが」 「なになに、俺のお嫁さん候補のこと?」 「はい。数名ほどリストアップしました」 「はやっ! アルマンってば、ほんと頼りになるね」
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