はじまりはじまり

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 ロラン王子がカップをおきます。鮮やかな緑の蔦柄がお気に入りの逸品です。 「とりあえず魔術画(今でいうところの写真のようなものです)だけでいいよ。肩書とかの先入観に邪魔されたくないし」 「かしこまりました」  アルマンが渡したのは全部で十枚。大半はドレスをめしたお嬢さんで、どこぞの姫君や貴族の令嬢のようでしたが、なかには眼鏡をかけた学者さんふうの子もいました。  ロラン王子は真剣な表情でひとりひとり丹念に見ていきます。『その人を知りたければ瞳の奥の光を見極めなさい』というおばあさまの言葉を思いかえして、じっくりと。自分のお嫁さんを選ぶのですから当然、腰のいれようが違います。  お茶が冷めてしまったころ、目を通しおえたロラン王子がふたたび最後の一枚を見つめました。 「ねえ、この子」 「ああ、ミヤ姫ですね。なかなかお目が高い」  そのお嬢さんは薄茶色の虹彩のまんなかに、あたたかな光を宿していました。  卓上のミルクティーとおなじ色の柔らかそうな長い髪を横にまとめ、袖の長い衣服をまとっています。  年頃は二十二歳のロラン王子より下で、十六か七くらい。白皙の肌にぱっちりした目と整った鼻口が形づくるのは、人好きのする愛らしいほほえみです。
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