あの時は、君じゃなくても良いと思っていた。

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彼の返答を待つことなく駅へ向かおうと思ったけれど、彼がそれを許してくれなかった。 「待って」 私の手首を掴み、歩くことの邪魔をしてきたのだ。 「まだ何か」 「この後に予定はある?」 「はい?」 彼の意図がわからなかった。 合コン会場から抜け出して帰るために、私たちは結託したのみ。 「予定がなかったら、今から俺と一緒にどう?」 「先ほどから何を言っているのかわかりませんが」 「最近溜まってるんだ。君となら余計な感情抜きで良い関係を築ける気がする」 一般的な女性が聞いたらかなりの最低な発言だろう。 いわゆる“セックスフレンド”への誘いなのだ。 このような生気のない男でも、性への欲求はあるらしい。 確かに私も性的欲求というものは存在する。 実際、男を作ってそのような経験もしていた。 けれどそこに特別な感情などなかった。 そのためすぐに別れる結果となっていた。 「その反応からして初めてじゃないよね」 「このような誘いは初めてです」 「君を見た時、俺が求めていた女だと思ったんだ」 「初めから性的な目で見ていたのですね」 「あー、うん。 君がそう思うならそれで良いよ」 少し責めてみたが、彼は一切ダメージを受けなかったようだ。 最早説明が面倒になったらしい。 「とりあえず一夜の過ちってことにしよう」 「何勝手に決めているんですか」 「本気で抵抗しない君も君だよ」 抵抗するのにも気力を要するから面倒なのだ。 それに彼も本気で私をセフレにしたいと思っていない様子。 きっと私がはっきりと断れば、すんなりと諦めることだろう。 つまりは互いに本気になることが面倒なのだ。 その瞬間、二人の意思が一致した気がした。 結局私たちは近くのホテルに足を運び、ただ性的欲求を埋めるために体を重ねた。 彼はこれまでの男の中で一番上手かった。
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