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男の意識は途切れたが、気づくと女に介抱されていた。
「なぜ助けた?」
男は問う。女は蒼い瞳の少女だった。
「なぜって、目の前で死なれちゃ寝覚めが悪いじゃない」
「放っておいてくれてよかった」
独り言のつふやき。
「死にたかったの?」
「生きている理由がないだけだ」
男は淡々と答える。
じゃあ助けてあげると女は言う。
「なぜだ?」
「見捨てる理由もないでしょう?」
屈託のない女の笑顔。無意識に伸ばした手は何も掴みはしなかったが、この時去来した感情の正体を、男は知らなかった。
「私はレイン。あなた名前は?」
男は「シン」と答えた。
レインは、この小さなライブハウスで、歌姫と呼ばれていたそうだ。
「つい最近までね」
そう行って小さく笑う。
じゃあその前は?
シンは言いかけてやめた。
忘れたい過去も、無くしたい記憶も、踏み込まれたくないのはお互い様だ。
体が動くほど回復した時、建物に数人の男が怒鳴り込んできた。
レインはびくっ。と身を固まらせ、男たちは彼女の腕を掴んだ。
シンは男たちを振り払い、自然とレインの手をとる。男たちとレインの間にある確執をシンは知らない。
ただ導かれるように、二人は駆けだした。
『組織』を抜けた男と追われる女。お互いに過去の詮索はしなかったが、無事を確かめあって安堵する。
安全な地を求め、どちらがともなく──手をとって歩き出した。
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