人でなし

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 朝起きると、何かがおかしい。  私は鼻で呼吸しているはずなのに、息を吸っているという感覚は胸の辺りに存在する。  ベッドから感じる自重の効力にも、変にムラがある。  恐ろしい気持ちで、鏡に向かう。  向かう間にも、やけに目線が高いことに気づく。  そして鏡を見る……  私は身の毛が震えるような感覚というのを、人生で最も鮮明に味わった。  鏡の奥に居たのは、紛れもなく異形であった。  背丈は二・二メートルほど、肌は緑に変色し、  腕の大きさがあまりにも非対称であることが目立ち、  顔のパーツはあちこちに分散した、  私の知る異形の中でも、群を抜いて気味の悪い異形だった。  私は、怖くなって外へ飛び出した。  誰かに言って欲しかったのかもしれない。  「お前は異形なんかじゃない。ちゃんと人間だ。」と。  どこかの駅前の広場まで来て、やっと周りが見え始めた。  私の周りには人が居なかった。  半径三メートル程を境にして、皆私を避けて歩いていた。  その目にあるのは嫌悪、恐怖、怒り……様々な負の感情が、私に向かって吐き出されていた。  その誰かが呼んだのだろう。呆然と立ち尽くしている間に、防護服を着た警官が数名やってきた。  私は、叫んだ。「私は異形なんかじゃない。人間だ。」そう喉を枯らして叫んだ。  私は信じていた。  私が死に物狂いで主張すれば、きっと誰かは私の気持ちに気づいてくれるだろう。  そう信じていた。 ――しかし、残ったのは体力を消耗した私だけ。  私を抑える警官も、距離をとりこちらを囲む野次馬たちも、誰一人としてなんの変化もしなかった。  私には彼らが、とても人であるようには見えなかった。
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