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九.
家に戻ると、傷だらけの俺の姿に爺ちゃんを問いただした婆ちゃんと母ちゃんが、勝手に鶏や豚をシメたことや、それを猟銃まで持たせて幼い俺にやらせたことに激怒しあきれ叱ったが、爺ちゃんは聞いてるのか聞いてないのか、居間でラジオのスイッチを入れると横になり煙管をふかし始めた。
その夜は急遽集められた親戚一同のみならず、近所の住民たちも交えての大宴会となり、嫁衆総出によるあらゆる豚肉料理が振る舞われた。
酒を酌み交わし、今回の件に限ったことでは無い爺ちゃんの常軌を逸した数々の非道に対する愚痴を言いながらも、みんな、嬉しそうに、美味しそうに、笑っていた。
当の爺ちゃんは隅っこの方で一人、鶏の刺身をアテに酒をすすっていて、俺の視線に気付くと、こっちへ来いと顎で示し、人の隙間を縫ってなんとか辿り着いた俺の口に、無言でその中の一切れを押し込んだ。
ひんやりとして弾力のある舌触りと歯ごたえに、昼間、自分の手によって息絶えた鶏を思い出し、僅かな催吐感を覚えるが、それを押し戻すように強く飲み込み、腹に落ちていく感触を確かめ、
「…………もう一切れくれんか」
「好きんだけ食ぇ」
箸を受け取り薄切りにした鶏の生肉を夢中で頬張る俺を、爺ちゃんは目を細めて見詰めていた。
終
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