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一．
うだるような真夏の昼下がり、俺は縁側で西瓜を皮まですすりながら、ぼんやりと庭木の陰に潜む蟷螂を眺めていた。
「のぅ、爺ちゃん、爺ちゃんちは扇風機ば買わんと？」
背後の居間で横になり煙管をふかしている爺ちゃんに振り返って語り掛けるも、返事は無い。
代わりに煙管で火鉢の縁を叩き灰を落とす音が返ってきた。
爺ちゃんの傍らのラジオからは、今年いよいよ新型の超特急が開通するとかなんとかいうニュースが流れてくるが、俺の住んでいる山と田畑しか無いような地域には全く関係無さそうだった。
「もしこの辺りまで超特急ば来たら、俺も都会に行けよぅかのぅ」
つぶやきながら庭に視線を戻すと、一匹の蝶がひらひらと垣根を超えて庭に迷い込んできた。
蝶は何を探しているのか庭木の周りを彷徨っていたが、やがて低木に咲く赤い花に下りて羽を休めた。
が、そのそばには先程からじっと息を潜めてその時を待っていた捕食者の姿があった。
蝶は一瞬にして蟷螂の腕に捕らわれ、生きたままその身をむさぼられ始める。
稀有な瞬間に出会えたと見入っていると、背中越しに聞こえるラジオから、どこかの殺人事件のニュースが流れてきた。
「……のぅ、爺ちゃん、人や生き物を殺すのは良ぅないことちが、俺たちゃ毎日生き物を殺して食べとうよな？
動物もみんな、何かの生き物を殺して食べとぅが。
どういうことちね？」
爺ちゃんは相変わらず無言で煙管をふかしていたが、やがて葉が燃え尽きると最後の一吸いの煙を大きく吐き出し、火鉢の縁でカーンッと大きな音を鳴らして吸い殻を落とすと立ち上がり、
「こっちゃ着いて来」
縁側から降り、下駄の音を響かせながら裏の畑へと歩き始めた。
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