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私の名前は『冴月(さつき)』、4年制の女子大に通っていて、4年生の今年は就職活動で忙しい日々を送っている。
私は日頃から注意していることがある。
それは決して大声で叫ばないことだ。
なぜ大声で叫ばないようにしているのかは、私が小学2年生の頃、ある不思議な出来事が起こったからだ。
日曜日に自宅で遊んでいた私は、床の間に置いてあった父が大切にしている骨董品の高価な花瓶にいたずらをして割ってしまった。
もちろん私が悪いわけで、居間でテーブルに座って父からこっぴどく叱られた私は、耐えられなくなって悲鳴のような大声で、
「キャー」
と言って泣き叫んだ。
すると家全体から、
「ドーン」
という大きな衝撃音が聞こえ、私の目の前にあったマグカップが粉々に砕け散ったのである。
父も私も驚いて父は怒るのをやめ私は泣くのをやめて、いったい何が起きたのか混乱して言葉が出ずに砕け散ったマグカップを注視していた。
この頃から私は大声で叫ぶのが怖くなった。
また父は私が何か悪いことをしたときは、怒るのではなく言い聞かせるようになった。
不思議な出来事は、私が中学1年生の運動会の日にも起きた。
運動会の日、私達生徒の応援席はグラウンドを挟んだ校舎の対面にあった。
運動会の競技はスケジュールに沿って行われ、紅組と白組が接戦で最後の紅白対抗リレーで勝敗が決まる場面を迎えていた。
私は紅組の応援席にいたが、紅組のアンカーが白組のアンカーに抜かれそうになった時、私はつい大声で、
「頑張れー」
と叫んでしまった。
するとグラウンドの向こう側にある校舎から、
「ドーン」
という大きな衝撃音が聞こえ、いくつかの教室の窓ガラスが大きな音を立てて粉々に割れてしまったのである。
私は自分が大声で叫んだせいだと思ったが、先生や生徒、父兄は何事が起ったのかわからないようで、皆一斉に校舎の方向を見つめて静まり返ってしまった。
私の叫び声は、小学生の頃よりも中学生の頃のほうが、格段に衝撃が強くなっているのではないかと私は感じていた。
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