カタツムリは泣かない

1/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 僕はカタツムリ、みんなの嫌われ者だ。じめじめとして陰湿で多湿な空間を好む、人間とは真逆の生き物さ。  人間の最近の言葉で僕を表出するなら『陰キャ』って言うのが的確じゃないかな。  僕は自分の背中に嫌なことがあったり、ありそうだったりしたら隠れる。目を現実から背ける。それが正しいかなんて知らない。でも本能に刷り込まれたそれに従うのみ。  だから、今僕が殻に閉じこもって見て見ぬふりをしていることも許してほしいものさ。 「きゃー」  人間に悪意をかけられるナメクジがいた。人間は残酷な奴らだ、耳が大きいからって僕たちの小さな悲鳴を聞きやしないんだ。本当に勝手な生き物。  悪意に水をぐんぐんと吸われて行くナメクジは段々と体を小さくしていた。僕はナメクジの死がすぐそこまで来ているのが分かる。同じじめじめ仲間としてわかるのだ。  僕たちにとって水分は命と等価だ。それを失うことは死ぬことと同義だと言っても差し支えはない。  彼女の命がもし助かったとしても他のナメクジよりも短命となることは言うまでもない。  ドン!ドン!ドン!ドン!  人間の足跡がナメクジから離れていった。僕はゆっくりとイジメられていた彼女の下に足を運んだ。 「死んでる」  そこには干からびた彼女の亡骸がだらしなく伸びきっていて、生命を感じさせはしなかった。あたりには彼女の新鮮な水が散らばっていて、さっきまで彼女が生きていたことの証になっていた。  僕が思うに石の下に隠れることは賢明では無いのだ。人間はそれをひっくり返して遊ぶ。見つかれば僕たち生き物は弄ばれて、寿命を減らすだけ。見つからないことに越したことはないとは言え、石の下では好奇心の旺盛な子供に見つけられてしまうかもしれないのだから、人間の、特に子供の手が届かないところにいるべきなのだ。  狭いところ、それがもっとも僕たちの生存を保証してくれる場所ではなかろうか。  でも僕には殻がある。移動を制限されてる代わりに何からも守ってくれる盾がある。  だから僕は傲慢にも自分より下のものを見下す。さっきのナメクジだって殻が無いから死んだんだって思ってる。別に似てるからって仲いいわけでもないのだから、助けようとも思わない。  まあ、仲が良くても助けないさ。命あっての物種だ。  明日には死んだナメクジのことも忘れてる。僕は葉の裏に登ってそこで夜を明かすことにした。昼にも夜にも天敵は多いから、見つからないことに越したことはない。  そう、夜は小さな悪魔はいないから葉の裏でいい。  こうやって傲慢な僕は油断してしまった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!