出会い

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トイレを済ませると 大きな鏡の前に立った 「・・・あ」 今更ながら明る過ぎる所為で鏡に映る自分の姿がボヤけていることに気付く 「イケテナイバージョン」 子供の頃からオンとオフを完璧に使い分けていた私は 学校へはメガネと引っ詰め髪のイケテナイ地味子バージョン 遊びはウェーブの髪を下ろしコンタクトで素顔を晒したゆるフワお嬢様風バージョンと 変装を楽しんでいた それに乗っかって変装するようになった繭香とは 学校でも目立つことなく 空気と化して過ごせた そして・・・今日 面接試験の所為でイケテナイバージョンの私はコンタクトレンズを家に置き忘れてしまったのだ 繭香と会ったのはイレギュラー ゆるフワお嬢様風バージョンだから メガネもかけられない カクテルを飲み過ぎてフワフワした足取りと 裸眼のままで朝靄の中を歩いているような感覚に 指を壁に這わしながら 伝い歩きで繭香の待つ個室へと脚を向けた 長い通路の中ほどに差し掛かった時 伝っていた指が突然支えを失った 「キャッ」 個室の扉が開いたことで 足元の覚束ない私は引き込まれるように グラリと一歩よろめいた 「おっ、と」 倒れると思った身体は 個室の中の人によって抱き留められ どうにか助かったようだ 「あ、ごめ、ん、なさ、い?」 途切れ途切れになったのは 抱き留められられた身体が 更に拘束されたからだった
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