だって、私は姉の妹だから

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 2人分のスムージーを作っていると、トイレから廊下を駆け抜けるように、空っぽの嗚咽が聞こえてきた。慎吾が吐き出しているのは、自ら背負い込んだ重圧だった。  私はすぐに駆け寄って背中をさすってあげたいけど、キッチンから動くことが出来なかった。そんなに苦しいなら辞めなよって、もし生活が不安なら代わりに私が稼ぐよ。そう言いたいけど、私は言えない。  想いがバレてしまうのが怖いし、言う資格もなかった。私は17歳の高校生で、慎吾の奥さんは私の姉だった。  慎吾は小さな頃から私にとって自慢の人だった。見上げるほど背が高くって、包み込むような大きな手のひらは、何もかも掴んでしまいそうだった。  実際にその手で幼い頃から持ち続けた夢を掴み獲った。その夢はもがくほど、粒子鉄線のように慎吾の心を傷つけていた。  慎吾は現在、J1リーグで3年目のGK、19歳でレギュラーを掴んで、今シーズンからキャプテンになった。それは会長から直々の申し出だった。  直接電話が掛かってきて、クラブハウスまで来るように求められた。会長室に入ると会長以外に強化部長、宣伝部長、監督、その他一通りの幹部に出迎えられ、申し訳ないと頭を下げて頼まれた。  所属クラブは6度のリーグ優勝の経験がありながら、今シーズンは6節を終えた時点で最下位だった。一度の引き分けと残りは敗戦、それでもクラブに監督を切る決断は出来なかった。  監督は、10歳から下部組織に所属して、36歳で引退するまで在籍したクラブのレジェンドだった。引退後に2年間ユースチームの監督をして、満を持して今シーズンからトップチームに就任していた。  現役時代の監督のポジションはGKで、キャプテンになったのは4年目、当時のチーム状況は降格争いだった。監督がキャプテンになってチームは上向きに、その後リーグ戦を制覇した。クラブとサポーターは、慎吾に同じことを期待した。  当時はチーム数が16しかなく、クラブの資金力で順位が決まるほど今のJリーグは甘くない。比較すれば違うところだらけなのに、GKと生え抜きってことだけで重ねられていた。そんな勝手な想いなんて断ってしまえばいいのに、慎吾は背負い込むことを選んだ。  試合当日の朝は、こうやって必ずトイレにこもって、大抵1時間は出てこない。そのために逆算して、早起きまでしていた。  そんなに苦しいなら、辞めてしまえばいい。キャプテンだけじゃない、サッカー自体辞めてしまえばいい。  毎週試合結果に一喜一憂して、一度のミスで声援が非難に変わる。慎吾は一つひとつを気にする繊細であるせいで、勝ったところで、反省ばかりで喜ばない。あんなに楽しそうにしていた学生時代は幻のように思うほど、プロになってから苦しむ姿しか見ていない。それが心苦しくて、抱きしめてあげたかった。  慎吾とは生まれる前から幼なじみ、だけど私の物心がつく前から、慎吾と姉は手を繋いでいた。2人は3つ年上、私が幼稚園の時は、2人とも小学生、やっと一緒に通えると思っても、4年生で2人は中学生。当たり前だけど、私が中学校に上がれば、2人とも高校生になっていた。  私は中学の入学式が終わると、真っ先に家へ帰った。制服を慎吾に見せたくて、部屋の窓から通りを見張っていた。慎吾には連絡しないで、驚かせようって企んでいた。出窓に腰掛けて監視して、飽きたら鏡の前でポージングをしていた。  そんな浮かれた心はシャボン玉のようにパンっと弾けた。姉と慎吾が並んで帰ってきたのだ。高校生の2人が手を繋いでいる。その意味がわからないほど、初ではなかった。私が着ている制服は姉のお下がり、憧れたのは姉のいる場所だった。  私が高校生になって選んだセーラー服も姉のお下がり、慎吾の隣を歩きたくて、必死に姉の後を追ってきた。その姉が18歳になって選んだのは、ウエディングドレスだった。レンタルで借りたドレスは姉のものじゃない、私が着る頃には処分されているのかもしれない。その方がいい、だって隣に慎吾はいてくれないのだから。  今、姉は入院している。妊娠6ヵ月で、切迫早産の恐れがあるためだった。私は姉から慎吾の世話という名目で監視を頼まれた。姉は自分の体以上に慎吾を心配していた。そんな姉に対して私は怒っていた。  心配するなら、慎吾にサッカーを辞めるように説得するべきだって思っていた。こんなに苦しんでいる姿を見て、黙っていられる理由がわからなかった。  そもそも姉は昔から何を考えているのかわからない。慎吾と付き合うことにも驚いたけど、結婚の方が信じられなかった。だって姉には幼い頃からの夢があった。  姉は犬が好きで、小学校の頃の夢が獣医だった。受験を見据えて、内申点を上げるために中学も高校も生徒会長になって、ボランティアをして、第一志望の国立大に受かった。なのに姉は、進学せずに慎吾との結婚を選んだ。  私は姉の努力をずっと見てきた。中学校の頃、勉強のやり過ぎで過呼吸になって、お化けを見たってわけの訳のわからないことを言って、泣きながら救急車で運ばれたこともあった。  姉はそこまで追い込んで目指した夢を掴み獲って手離した。結婚しながら大学に通えばいいだけの話だし、サッカー選手は現役が短く、怪我をすればなおさらで、一生を委ねるなんて、先を見据えて生きてきた姉らしくなかった。 「変な女に盗られちゃうかもしれないじゃん」  そんな普通の女の答えに納得出来なかった。  姉と試合観戦に行っても、姉はほとんど見てやしない。手を握って、下を向いて、苦しそうにしている。勝っても負けても慎吾に顔を見せずに帰ってしまい、観戦に行ったことも黙っていた。 「負けたとき、なんて声を掛けたらいいか、わからないから」 「観に行かなきゃいいじゃん」 「そうだよね」  姉はそう答えながら、次の試合も見に行った。 「また行くの?」 「うん」 「どうせ見ないのに?」 「じっとしていられないんだよね」  私は頭が良くて、背が高い姉に憧れていた。ジーパンにTシャツのシンプルな姿がカッコ良くて、私も着たいなって思っても、小さい私には似合わない。ちんちくりんが真似ても、小学生にしか見られない。だから好きでもないフリルを手にとって、ピンク色で可愛い子ぶっていた。  慎吾に「子供だな」って言われて喜んだふりをして、高校生にもなってツインテールにして、慎吾の前では子供っぽさを演じていた。そんな自分をバカだなって思いながらもやめられなかった。子供扱いを楽しむ慎吾が、いたからだ。  部活は色々見学に行ったけど、入りはしなかった。やりたいことが見つからなかった。私は慎吾に尋ねた。 「何をすればいいかな?」 「好きなことをすればいいよ」  慎吾は大きな手のひらで、私の頭をポンポンと優しく撫でる。私は慎吾に好きだと言われたい。心の中で、呟いた。  朝食のスムージーは、バナナとほうれん草、ニンジンにリンゴ。これが不味い。やめたいと思っているのに、やめられない。始めたは慎吾、真似っこしたのは姉と私。今でも続けているのは、慎吾と私。  成績は上位には入っているけど、姉のようにトップなんて獲ったことはなかった。せいぜい学年で30位前後が精一杯で、更に上位に入りたいけど、これ以上は頑張れなかった。  予備校に通って、行きと帰りの通学での復習が精一杯、予習をする気にはなれなかった。あと、ひと踏ん張りが足らない。そのためには目標とか夢が必要だった。私が夢について考えても、姉のウエディングドレスが浮かぶだけだった。  慎吾がトイレから出てくると、何事もなかったような顔をしてソファーに座った。私が差し出したスムージーを掴んで、ゴクリと飲み込んだ。 「何で杏子が作ると旨いのかな?」 「愛情がこもってるからね」  私もソファーに座った。4人がけの端っこ、ふたり分離れた距離が精一杯、これ以上近づけば冗談じゃないってバレてしまう。私は「好きだ」って言いたかった。そんな自分を押さえるための距離感、あくまでも姉に頼まれているからここにいる、そのスタンスは守らなければならない。だって、私は姉の妹だから。  私が慎吾を好きになったのは、物心が付いた頃からだって言っても嘘じゃない。それが17歳になっても変わらない。好きだと言って、フラれたなら吹っ切れたかもしれない。それがいつまでも言えないから、いつまでも絶ちきれない。  3年早く生まれた姉だけど、私が先に生まれていれば、、、そんな無意味な後悔にずっと縛られている。  私は出掛けていく慎吾に、 「いってらっしゃい」  手を振った私の一方通行な新婚ごっこだった。  ここはマンションの2階、私は玄関で階段を降りていく慎吾を物欲しそうに見送った。姉だったらキスくらいするのだろうか。そんな考えがポツンと落ちて、入院した姉が死んじゃったら、、、そんな悪魔みたいな考えが浮かんだ。  やばい、早く吹っ切らなければと思いながら、その糸口は見つからない。ただ漠然と奇跡を期待して、起こるはずもないだろうなってあきらめていた。そんな私に、笑ってしまうような仕組まれた偶然が何度も重なった。高校での出来事だった。  くじで決めた席が隣になったり、体育祭実行委員で一緒になったり、電車が同じだったり、観たい映画が一緒だったりした。青葉って名前の同じクラスの男子だった。  青葉は慎吾みたいに背は高くないし、頼りもない。髪は猫っ毛だけど、犬みたいに動きだけで感情が読み取れるわかりやすい奴だった。  私は友達と一緒に青葉の男子グループとの時間が増えた。男子たちのバカな遊びを見させられて笑っていた。    青葉が突然手品をするって言い出して、席に着いていた私の前に座ってトランプを取り出した。その手品は引かれたカードを当てるっていうよくあるやつで、青葉は私にカードを引かせた。私がカードを戻すと、私にカードを切るように頼んだ。切って戻すと、 「当たってますか?」  慎吾が1枚のカードを選んで私に見せて、私にだけに問いかけた。私を囲うように立っていた女子たちは、笑うのを堪えていた。 「俺たちも参加させろよ」  女子たちの後ろにいた男子がたまらずツッコむと、堪えていた女子たちが一斉に吹き出した。あまりにも特別扱いが過ぎるのだ。青葉が必死で否定したって真っ赤な耳が隠しようがなかった。つられて私まで赤くなった。  イイ奴なのは明らか、いつか告白されるだろう。嫌じゃないし、むしろ嬉しかった。付き合ってしまおうか、そうしたら慎吾を忘れられるかも、なんてことも考えていた。  告白はどしゃ降りの日だった。前日にどうしても2人で会いたいと言われ、待ち合わせは私の最寄り駅を指定された。わざわさ路線を乗り継いで青葉は来てくれて、どこへ行くのかと尋ねると切符を渡された。目的地には電車で行くらしい。  駅を降りて、入ったのはパンケーキが有名なカフェだった。その後に向かったのが、ヒマワリ畑が有名な公園だった。入場料を払おうとすると前売り券を渡されて、綿密な計画なんだなって伝わってきた。  きっと、どしゃ降りは想定外だけど、日程はずらしたくなかったのだろう。決意が揺らぐのを恐れたにちがいない。それがわかるくらいの仲になっていた。 「好きだ。付き合ってほしい」  朝から長々と過ごしてきたけど、告白はシンプルだった。それが余計に心に響いた。どしゃ降りの中でヒマワリに囲まれ、貸し切り状態。2人ともひとつづつ傘を差していた。打ち付ける雨が留まる余裕なく、傘からこぼれ落ちていく。私は答えを急かされているような気がした。好きな人がいるって断った。 「そっか、結ばれるといいな」  笑顔の青葉の優しさに、私は断ったことが正しかったと思えた。不純な動機で利用しなくてすんだ。でも、その代償は大きかった。  翌日から学校で青葉とは話せなくなった。男子は男子で、女子は女子で固まって、せっかく仲良くなった関係が真っ二つに割れた。私がみんなに謝ると、気にしてないと言ってくれた。男子たちも怒っているわけじゃなかった。逆にごめんなって謝られたけど、クラスが静かになったことは、私の思い過ごしじゃない。そんなぎこちない私の学生生活とは反対に、慎吾の状況は好転していた。  慎吾のクラブはなんとか成績を持ち直して、ちょうど真ん中の9位で中断期間を迎えていた。1位との勝ち点差は15。運の要素は多いけど、もとより優勝は奇跡だったのだから、ここまで追い上げたなら、望みを抱いてもおかしくはない。  チームの成績に比例して、慎吾も一時期よりは、精神的にも落ち着いていた。トイレにこもらなくても済むようになっていた。私にしてみれば試合に勝つよりも嬉しかった。  今日はご馳走を作ろうと、張り切ってすき焼きの具材を買い込んだ。慎吾が大好きなネギと春菊の下には、私の大好きな餅入り巾着を忍ばせるつもり、慎吾が「おでんかよっ」ってツッコむ姿を想像して、食材を冷蔵庫へ入れながら一人で笑っていた。だけど帰ってきた慎吾の姿に私の笑顔は消え失せた。  慎吾は「ただいま」も言わずに、トイレへ駆け込んだ。試合前に吐くことはあっても、帰宅してからは初めてだった。本当に体調が悪いのかと心配になって、駆け寄ってしまった。 「移籍することにしたから」  そう言って振り向いた慎吾は、驚いていた。私を姉だと思っていたのだろう。すぐに平静を装って、言い訳するように移籍理由を語りだした。  移籍先はイングランドのクラブで、レンタル移籍じゃなく、完全移籍で話が進んでいる。そのクラブは昨シーズンのリーグ覇者で、どれだけすごいチームに移籍するのかってことを説明してくれた。  そんな説明がなくたってわかるくらいには、私だってそれなりの知識はある。慎吾は言わなかったけど、大量の若手を獲得しては、他クラブへレンタル移籍をさせていることを知っていた。お金は出すが、自分では育てず、他で勝手に育ったら、チームへ呼び戻す。そんなことを繰り返すチームだった。しかも、どの国のチームにレンタルさせられるかわからない。リスクしかない。  きっと、慎吾は焦っているのだ。同年代は当然、十代の選手ですら海外移籍して、活躍している時代だった。GKはなかなか出ずらいポジションで、一枠しかなく、経験を重宝されるからだ。降って沸いた移籍話に飛びついたのだろう。  不安から嗚咽していた。妊娠している姉を置いて単身赴任なんて、絶対無理だと思った。今、苦しいなら、ひとりで耐えられない。辞めたほうがいい。そう言いたいけど、私の頭には教室での青葉がちらついた。お互いに気づかって、でも気になって、視線が重なって、そらさしてしまった。慎吾とは、そんな風になりたくなかった。 「おめでとう」  私は祝福するしかなかった。これまでだってそうしてきた。無力な私は、姉に告げ口するしかなかった。スマホを取り出して、やり取りはLineに頼った。声を聞かれたら、私の想いが伝わってしまいそうで怖かった。 「仕方ないよ」 「慎吾がやっていけるわけないじゃん」 「やっていけるよ」 「なんでそんなこと言えるの?」 「そう言うしかないでしょ」  一行づつのやりとりでは、姉の真意を見定めるには短すぎた。 「なんで止めないの? 慎吾が壊れちゃったらどうするの?」  姉の返信が途絶えた。既読になったのに、返ってこなかった。私はそれを姉の弱さだと思った。  姉が説得しないのは、慎吾に嫌われるのを恐れているのだと思った。私だったらケンカになったって止めている。それが愛だと思うからだ。姉が出来ないなら、私が止めなくちゃって、私しか慎吾を守れないって思った。姉の返信が届いた。 「余計なことは、しなくていいからね!(^^)!」  顔文字で誤魔化したって、ひどく冷たい文章に見えた。姉とはケンカしたことがないから、文面そのままには受け止められない。姉がどんなつもりで送ったのかがわからなかった。  それから1週間が過ぎた日曜日の昼、練習を終えて帰宅したばかりの慎吾の足音がドタドタと廊下を響いた。  リビングで昼食を用意していた私が扉を開けると、慎吾が電話をしたまま、片づけたばかりのサッカー要具を抱えていた。  慌てる慎吾の会話で、出国が今日に前倒しされたことを知った。どうやら理由を電話相手の代理人ですら把握しておらず、クラブ側でトラブルがあったのは確かだけど、詳細は不明で何日滞在するのか、ホテルは用意されているのかすらわからないようだ。  慎吾が電話している横で、私が代わりに支度をした。電話を続ける慎吾に、私を気にする余裕すらないようだ。慎吾の会話は不安しか伝わらなかった。  この期に及んで契約が白紙になる可能性があるらしく、仮に契約したとしてもレンタルが確実で、そのレンタル先は決まっていないという。  代理人としては、無理して海外を選ぶよりも、日本で次のチャンスを待つ方を勧めていた。  私は心の中で頷いていた。慎吾は日本で順調にきている。20歳のGKでJ 1のレギュラーは凄いことだった。大柄な外国人選手が過半数を占めていて、日本人のレギュラーに限定すれば、みんな30歳を越えていた。  ポジションが確約されている中でわざわざ異国、しかもレンタルでどこに出されるかわからないクラブなんて条件が悪すぎる。言葉の問題、迫るオリンピック、姉の妊娠。明らかに日本に残った方がいい。なのに慎吾は行くという決断を告げて、電話を切った。   「行かない方がいいよ」  私の言葉に、慎吾は何も言わず、大きな手のひらを私の頭に乗せた。それは夢を掴んだ手のひら。諭すように私の頭を優しく撫でる。聞き分けのない子供を愛でるように微笑んでいた。慎吾にとって私はいつまでも姉の妹でしかない。もし私がこの手のひらを掴んだら、必死で止めたら聞き入れてくれるのだろうか。姉を手離して、私の手を掴んでくれるのだろうか。  私は俯いた。慎吾と視線が重なるのか怖かった。言えなかった。私にそんな権利はない。だって、私は妹だから。  慎吾の電話が鳴った。予約したタクシーが到着したようだ。 「大丈夫なの?」 「行ってみないとわからないよ」 「ギャンブルみたいだね」 「まぁな」 「慎吾は破産するタイプだよ」  慎吾は笑っていた。これが私の踏み込める精一杯で、やっぱり私は気持ちを悟られたくなかった。慎吾にも、姉にも、、、今の関係を壊したくなかった。それが私の結論だった。  実は昨日、青葉と会っていた。7月の終業式の後、みんなが帰った教室で告白されたのだ。ようやく、男子たちとの気まずさが抜けて、前みたいな関係に戻っていた矢先だった。  青葉とも話すようになって、青葉本人から以前の告白を後悔しているのを聞いていた。みんなに謝っているのを知っていたし、関係を壊したことに一番責任を感じているのも知っていた。だから告白されるとは思わなかった。 「せっかく、皆の仲が戻ったのにごめん。でもどうしても、諦めきれないんだ。好きなんだ」  私の前で頭を下げる姿は、端から見れば謝罪しているようにしか見えないだろう。青葉の苦しみと私への気持ちがもったいないくらい伝わった。  最初に告白されたのが2週間前で、話せるようになったのは昨日のことだった。勝算があって出た告白じゃない。それが青葉らしくて、なんだか羨ましかった。  理屈や損得では説明出来ない想い、それは慎吾がサッカーに対する想いと、姉が慎吾に対する想いと同じだと思った。違うのは私のだけだったんだって気づかされた。  私の恋は憧れ、本気とは言えないのだ。本気じゃないのに、ずっと苦しかった。もし慎吾が海外へ行って上手くいかなかったら、、、そう思うと恐ろしかった。  慎吾はスパイクと練習着、レガースにテーピング、サッカーに必要なものだけを詰め込んだ鞄を背負った。  私は玄関へ見送りに行かなかった。もう新婚ごっこは終わりにした。そして、私は2階の窓を開けて「頑張れ」って叫んだ。  やっぱり、私は妹だから。                 おわり
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