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「だが、それもこの任を終えるまでだ」
嬉々として杯を空ける崇道に、まるで水を差すように弓削は訊ねた。
「男たる者と、その気持ちはよくわかるさ。けれど、時として男の思わぬほどに女というのは脆くあるものだ。近頃の涼殿は健やかであったか?」
「近頃……?」
いつから涼音に会っていなかっただろうか……?もう、随分になるように思われた。
「あれは多くに慕われているからな。今は奥宮に出仕しているそうだ。案じることなど何も無い筈」
僅かに差した陰りは、喉元を過ぎる酒の如くすぐさま払拭される。
今の都は二朝廷の政が正され、平定を迎え始めている。陰陽師としての仕事は他愛のないものばかりの様に見受けられたのだ。
如何に楽観視していたのか、その時を目の当たりにしてようやく悔いても、それは後の祭りであった。
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