18人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「涼音っ!!!」
まるで泣き叫ぶように乞われて、涼音は目を開けた。
「す、崇道……?」
「くっ……、お、お前はっ!!!」
苦しいまでに掻き抱かれて、「この阿呆が……」と誹られた言葉が「愛しい」と、聞き違えて聞こえるのだから困ったものだ。
久しく触れていなかった温もりに、今までどれ程に寂しかったのかを思い知る。胸を軋ませるこの想いが、身勝手なものであるのだとしても、最早止めようがなかった。疎まれてしまうのではないかと恐れて、あれほどに掴むことをためらっていた手は、縋るように崇道の袂を掴んでいた。
「崇道……、寂しくて涼音は消えてしまいそうです。どうしたら……どうすれば良いのでしょうか……?」
情けない真情を吐露する涼音に、崇道はその端正な顔を苦し気に歪めた。続いて零れ落ちた一粒の雨。
「なっ……」
それがよもや崇道の目から零れ落ちたものだとは思わなかった。まるで槍でも衝かれたかのような顔つきに、涼音は慌てて身を起こす。
これほどに苦しむ崇道など見たことは無い。吐露した言葉が、如何に失言だったかを悔いた。己を呪うほどに涼音までもが顔を歪めて、思わず涙する。
「す、すいま……」
強く抱擁されて、その先を告げることは叶わなかった。
「この……阿呆ぅが……」
相も変わらない憎まれ口は、やはりまるで怖くはなかった。
「す、崇道?」
「我が平気だと、何故考えた?我がお前を忘れると何故思う?我が現世に生きるのは、お前がいるからだ。お前がいないのならば、現世など我は要らぬ。歯牙にもかけぬ。お前が洞を望むなら、我も行くまでよ。髪の一筋さえも他の者に譲る気など無い。例え地獄に落ちようと、その身体も、御霊も全て我のものと心得よ」
何という執着。重すぎる告白。
脅しのようなその言葉にも怯まずに、涼音は崇道を睨み付けた。そこは流石、ことごとく理を捻じ曲げ、悪鬼を祓うもぐりの陰陽師という訳だ。
「では、そうも涼音から離れないでください。私は誰よりお傍に在りたいのです」
思い切って望みを口にすれば、それに応えるように崇道は尚一層に涼音を抱き竦めた。互いの距離など微塵も無いが、覗き込むように崇道を見上げる涼音は、まだ不安を払拭できない様子にあった。
「私があなたのものであるなら、崇道は私のものですよ?」
「相分かった」
耳元で誓われたその言葉に、涼音はようやく花も恥じらうような笑みを覗かせたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!