我が名は

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「涼音っ!!!」 まるで泣き叫ぶように乞われて、涼音は目を開けた。 「す、崇道……?」 「くっ……、お、お前はっ!!!」 苦しいまでに掻き抱かれて、「この阿呆が……」と誹られた言葉が「愛しい」と、聞き違えて聞こえるのだから困ったものだ。  久しく触れていなかった温もりに、今までどれ程に寂しかったのかを思い知る。胸を軋ませるこの想いが、身勝手なものであるのだとしても、最早止めようがなかった。疎まれてしまうのではないかと恐れて、あれほどに掴むことをためらっていた手は、縋るように崇道の袂を掴んでいた。 「崇道……、寂しくて涼音は消えてしまいそうです。どうしたら……どうすれば良いのでしょうか……?」 情けない真情を吐露する涼音に、崇道はその端正な顔を苦し気に歪めた。続いて零れ落ちた一粒の雨。 「なっ……」 それがよもや崇道の目から零れ落ちたものだとは思わなかった。まるで槍でも衝かれたかのような顔つきに、涼音は慌てて身を起こす。  これほどに苦しむ崇道など見たことは無い。吐露した言葉が、如何に失言だったかを悔いた。己を呪うほどに涼音までもが顔を歪めて、思わず涙する。 「す、すいま……」 強く抱擁されて、その先を告げることは叶わなかった。 「この……阿呆ぅが……」 相も変わらない憎まれ口は、やはりまるで怖くはなかった。 「す、崇道?」 「我が平気だと、何故考えた?我がお前を忘れると何故思う?我が現世に生きるのは、お前がいるからだ。お前がいないのならば、現世など我は要らぬ。歯牙にもかけぬ。お前が(うろ)を望むなら、我も行くまでよ。髪の一筋さえも他の者に譲る気など無い。例え地獄に落ちようと、その身体も、御霊も全て我のものと心得よ」 何という執着。重すぎる告白。  脅しのようなその言葉にも怯まずに、涼音は崇道を睨み付けた。そこは流石、ことごとく理を捻じ曲げ、悪鬼を祓うもぐりの陰陽師という訳だ。 「では、そうも涼音から離れないでください。私は誰よりお傍に在りたいのです」 思い切って望みを口にすれば、それに応えるように崇道は尚一層に涼音を抱き竦めた。互いの距離など微塵も無いが、覗き込むように崇道を見上げる涼音は、まだ不安を払拭できない様子にあった。 「私があなたのものであるなら、崇道は私のものですよ?」 「相分かった」 耳元で誓われたその言葉に、涼音はようやく花も恥じらうような笑みを覗かせたのだった。
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