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女子というものは
「皆さまの恋模様も気になりますが、私としては姉上様の近況を是非とも伺いたいですわ」
そう目配せする沙雨に、涼音はたじろいだ。
「お話しできるような稀有なことなど何もございませんよ」
「そんな勿体ぶらずとも良いでは無いですか。悩み事や愚痴などでも勿論、構いませんよ?」
皇后、嘉智子付きの女房の弥馬に案じるように顔を覗き込まれて、この会の本当の主旨を察してしまう。気付けば皆が案じた目を涼音に向けていた。
「そうですね。恋とは嬉しく華やいだ反面に、苦しくせつないものですものね……」
本日の宴の主催者である嘉智子は扇を口元に当てて、なよやかに床に手を着いた。憂いた女子を演じて、舌を覗かせる。
「柊――いえ、涼殿を皆で心配しているのです。些細なことでも知りたいと欲に駆られるは女子というものと、謀った私たちを許してくださいね」
「ふふっ。嘉智子様ともあろう方でも左様であるなら、致し方が無いと、諦めるよりは有りませんね」
扇を開いて涼音は優しく微笑んだ。
「やはり何かございましたのね?」
顔を曇らせる沙雨に、涼音は静かに首を横に振った。
「いいえ。ただ、恋心が過ぎるあまりの体たらくなのですよ」
何ほどでも無いとするも、沙雨も皆も一様に納得しない。
「では、尚のことお話しくださいませね。涼様も気に掛けておりますのよ?そろそろ、安心させていただきたいものです」
涼音よりも二つも年下の沙雨の貫禄たるや、流石、一国の次期当主の妻。逃げ道を塞ぐ言葉を選んでくる。『涼』の名を出せば、涼音が弱いことなどとっくに承知の上だ。
「今までとは趣が違い、互いにぎこちない。それだけですよ」
涼音は少しばかり寂し気に微笑んだ。
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