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「それは……何ともお寂しいことですね」
嘉智子は掛ける言葉を失い、眉根を寄せた。
「はい。今まで同じものを見て、同じ方を向いていたのが当たり前でしたので、今は人として当たり前のことにも戸惑うばかりなのです」
肩を竦める涼音に訝しい目を向けたのは、阿子だった。
「それで良いのですか?どうも、良いという風にも聞こえてしまいましたけれど?」
「そう、ですね。どうも、分からなくなってしまって……」
「え?」
「嬉々として南都に向かわれた姿に、寂しさよりも納得してしまったのですよ」
現世に精一杯生きている姿に、例えこのまま涼音を忘れてしまったとしても良いと思ってしまったのだ。
「っ……!良い筈が無いではありませんか!?」
叫んだのは沙雨だ。
「え……?」
「姉上様、ご自分がどのようなお顔をされているかご存知ですか?甚く哀しいお顔ですのよ?」
そんなに酷い顔をしているのだろうかと、涼音は思わず己の頬に手を添えてしまう。
「心に蓋をして、気づかぬふりをし続けるのはお辛いに決まっておりますよね?」
瞳を震わせ阿子が涼音の手を取った。
「何とも歯がゆいですわ。泣く子も黙る『鞍馬小天狗』は、もっとらしく振る舞われて良いと思いますよ?」
弥馬が何故か苛立ちを露わにした目で涼音を睨んで来る。
「ら、らしく……?」
「「「「そうです。私たちの知る『鞍馬小天狗』は狙った獲物は必ず仕留めてこそですもの」」」」
声を揃える女四人衆は不敵に笑んだ。
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