慕う人

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 火車(かしゃ)――黄泉の鬼へ咎人の御霊を運ぶ妖。火車(ひぐるま)もかつてはその任に当たる妖だった。けれども、今は現世(うつしよ)で涼音に使役され、涼音を神姫(かみひめ)と呼んで慕うに至る。 「か、神姫が……落ちた」 その御霊を呑み込まれ、今や亡骸(抜け殻)となって地に伏せる涼音に、火車は呆然となる。  火車の目は確かに(うろ)と呼ばれる狭間に落ちた涼音を捉えていた。  洞――どうやってそれが出来たのかは誰も知らない。また何処にあるのかも。そこは現世でもなく、死した者が向かう黄泉でもない。一説には堕ち神の向かうところだとされている。二度と還ることのないよう定められた場所。洞へ誘われた御霊は昇華することなく、永久(とこしえ)の無に返る。そのどれもがただの噂に過ぎない。何故ならば、洞を抜けて出た者などいないのだから。けれど、神の目さえも届かぬ(うろ)は確かにあると言う。そんな洞に落ちた者を助ける術など無く、それはその者の終焉を意味していた。 「こうも呆気なく人は逝くというのか?」 ピクリとも動かぬ(あるじ)を前にして、火車の中で走馬灯のように涼音との日々が蘇る。
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