18人が本棚に入れています
本棚に追加
火車――黄泉の鬼へ咎人の御霊を運ぶ妖。火車もかつてはその任に当たる妖だった。けれども、今は現世で涼音に使役され、涼音を神姫と呼んで慕うに至る。
「か、神姫が……落ちた」
その御霊を呑み込まれ、今や亡骸(抜け殻)となって地に伏せる涼音に、火車は呆然となる。
火車の目は確かに洞と呼ばれる狭間に落ちた涼音を捉えていた。
洞――どうやってそれが出来たのかは誰も知らない。また何処にあるのかも。そこは現世でもなく、死した者が向かう黄泉でもない。一説には堕ち神の向かうところだとされている。二度と還ることのないよう定められた場所。洞へ誘われた御霊は昇華することなく、永久の無に返る。そのどれもがただの噂に過ぎない。何故ならば、洞を抜けて出た者などいないのだから。けれど、神の目さえも届かぬ洞は確かにあると言う。そんな洞に落ちた者を助ける術など無く、それはその者の終焉を意味していた。
「こうも呆気なく人は逝くというのか?」
ピクリとも動かぬ主を前にして、火車の中で走馬灯のように涼音との日々が蘇る。
最初のコメントを投稿しよう!