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着替え、ペットボトルの水、携帯食、雨具と出していくうちに手帳が出てきた。ぱらぱらとめくると挟まれていた何かがはらりと落ちた。古い写真だ。ピントがぼけていて何を撮ったのかわからない。
手帳に視線を戻す。これはどうやら日記のようだ。最後の日付は彼が入院した前日だった。読んでいくうち気になる言葉が目に付いた。
『この村に間違いない……祖父が視力を失った原因がここに……最後に撮った写真は……』
驚いた。彼のお祖父さんもこの村に来たことがあったのか。おまけに彼と同じく失明?それに最後の写真って、もしかしてこれのことだろうか。
もう一度ピンぼけの写真を見る。一体なんだろう。手帳のページ全てに目を通してみたが、それについてもお祖父さんの失明の原因についても、詳しいことは書かれていなかった。結局わからず仕舞いだったのか、それともこの後調べるつもりだったのか。彼に訊きたいところだが、あいにく電話はつながらない。つながったところで彼は何も語らないかもしれないが。ただ少なくとも彼がこんな辺鄙な村に来た理由だけはわかった。
気がつけば10時を過ぎていた。細かい文字を読んだせいで目は疲れていたが、逆に神経は研ぎ澄まされたのか睡魔はまったく襲ってこない。
しょうがない。気分転換に散歩でもしよう。そう思い外に出た。辺りは真っ暗だった。そのおかげで星空が怖いほど近くに見える。
こんな田舎の村だとみんな寝静まるのも早いのだろう。と思っていたら遠くに光が見えた。歩くうちに一軒の屋敷から漏れる灯りだとわかった。自然とそちらに足が向く。
昼とは雰囲気が異なるのでわからなかったが、そこは村長の家だった。縁側の障子に車座になった人の影が映る。口論でもしているのか、時折荒らげた声が私の耳にも届く。その中に秘密という言葉が出たような気がした。
考えるよりも先に体が動いた。足音を忍ばせて縁側に近づくと、村長の声が漏れ聞こえてきた。場の空気をなだめているようだ。落ち着きを取り戻した人たちの会話が再開される。
誰かが秘密と言った。やはり話題はそれのようだ。集中するために目を閉じ、耳を済ませた。
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