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復讐の武器は快感
まさか、こんなことになるなんて思ってもみなかった。私は歯を擦り合わせ、固く目を閉じる。目尻からは涙が垂れる。部長の手がスカートの中から潜り込んできた。ひんやりとした給湯室。ゴツゴツしたガサツな指が、下着に触れ、うごめく。ささくれが繊細な下着の生地を引っ掻いた。最低だ。最悪だ。私は自分の運命を呪った。
きっかけは複数の部署が合同で集まる飲み会だった。
業界の中で最大手の広告代理店。今の会社に入社できたときは心の底から喜んだ。コピーライターの父親に憧れを抱き、広告で世の中を変えるのが夢だった私は、夢に一歩近づくことができて舞い上がっていた。その矢先に告げられたのは、事務部門への配属。別に事務の仕事を嫌っているわけじゃないけれど、自分のやりたいことからはかけ離れたその仕事に、完全に気が滅入っていた。
「たしか、藤堂さん──だったよね」
あの日の飲み会は、他部署との交流目的もあったため、コロコロと席が入れ替わり、気づけば人事部長である塩沢の隣に座っていた。大量にアルコールを摂取し赤らんだ顔。見にくく出っ張った腹。人事部の若手からも疎まれる存在の部長が、私に話しかけてきた。
「はい!」
「事務部の藤堂さんでよかったかな?」
「そうです。私のことなんか、よく覚えてくださってますね」
さすがに感心した。私の勤める会社は、世間一般でいう大企業。社員の人数だってかなりのものだ。にも関わらず、イチ社員の部署と名前を記憶してるなんてすごい。大企業の人事部ともなると管理が行き届いているなぁ──と感心していると、部長は言った。
「藤堂さんって入社当初、クリエイティブ部門を希望してたはずじゃ?」
「あっ──そうです。希望してました!」
人事部の部長とそんな会話ができるなんて願ったり叶ったり。当初は気乗りしなかった飲み会だったけれど、クリエイティブ部門に異動させてもらえるチャンスなんじゃないかと、一気に気分が高揚した。
「クリエイティブ制作部に異動願いを出してあげようか?」
「ホントですか!?」
「企業の人材ってのは適材適所。モチベーション高く仕事をして成果を上げてもらわないと、競合他社との競争に勝てんからなぁ。能力が活かせる部署で活躍してもらわんと」
部長は腹をさすりながら笑った。私は厚かましく思われないように、それでいて熱意を込めた眼差しで、「よろしくお願いしますッ!」と答えた。思えば、あの瞬間が全ての不幸の始まりだった。
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