魔法の眼鏡

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魔法の眼鏡

 世界は変わってしまいました。事の発端は私が発明した人の心が見えるメガネです。そのメガネをかけると相手の考えている事、心の声が聞こえるようになるのです。  もともと人の気持ちがあまり分からない私が自分の為に発明したものでしたが、世間に公表すると大歓迎で受け入れられました。  私は時の人のような扱いを受け、人々は私の事を世紀の発明者として褒めたたえてくれました。私はこれで人と人が分かり合えたら嬉しいと考えていました。  しかし、現実は違いました。人と人は分かり合えず対立が耐えなくなりました。人の心が見えるという事は相手の全てが見えてしまうという事でした。いい所も悪い所もです。  世間の人々は私の事を悪魔の発明者だと呼ぶようになりました。それは別に構わないのですが、道を歩いていると「お前があんな発明をしたせいで私は不幸になったんだ!」と罵声や石を投げられるのにはさすがに疲れてしまいました。  私は、私に罵声を浴びせかけてくる人たちにはいつも一つのアドバイスをすることにしています。 「人の心が見たくないのなら、そのメガネを外せばいいのです」  しかし、私のアドバイスを聞くと皆は顔を歪めるだけで、そのメガネを外そうとはしませんでした。やっぱり、私には人の気持ちが理解できないようです。  私自身はこのメガネをしようしていません。初めてかけた時にあまりに多くの人の声が見えてしまって頭が痛くなったので使うのをやめてしまったのです。  最近私がいつも考えている事は、後悔ばかりです。私が発明したものは間違っていたのでしょう。多くの人を不幸にしてしまったのですから。例え、そんなつもりはなかったとしても私の罪でしょう。  あまりに疲れていたので人の少ない場所を求めて歩いていたら、いつの間にか大学の研究室に足が向いていました。ここには随分来ていなかったと思います。 懐かしさに惹かれて扉を開けると、昔と変わらず助手さんが研究室の机に向かって座っていました。私が入ってきた事に気が付いた助手さんは振り返って言いました。 「ああ。教授。随分疲れた顔をしていますね。大丈夫ですか? 研究のし過ぎは体に毒ですよ」  そのあまりの変わらなさに私はほっとしてしまいました。ふと、助手さんの顔を見るとメガネが掛かっていませんでした。 「どうして、君はメガネをしていないんだい?」  私は昔のように助手さんに話しかけました。助手さんに話しかける時はなぜか砕けた口調になってしまう私です。助手さん以外にはいつだって敬語で話すのですが。なぜでしょう。自分でもわかりません。 「ああ。教授が発明したアレですか? 俺には必要ないからですよ」 「どうして?」 「アレが無くったって、教授の感が手ている事なんてわかりますよ」  肩を竦めて呆れたように助手さんがいいました。あまりに昔と変わらないのが懐かしく、またあまりにも能天気なのに腹が立って私は少し意地悪をすることにしました。 「じゃあ、私が今何を考えている、当ててみてくれないか?」  私の言葉に助手さんは少し考えるように顎に手を当てると言いました。 「俺が大好き」  あまりに真顔で言うので私は思わず笑ってしまいました。随分久しぶりに笑った気がしました。なので、私は素直な気持ちで答える事ができました。 「正解」
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