パラレルワールド

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パラレルワールド

「パラレルワールドを観測することができる機械を発明しました」  教授が今日もアホなことを言っている。 「もしかしてそのヘッドギアですか?」 「その通り。これをかぶればあらゆる並行世界を覗き見る事ができるんだよ」  SF映画に出てきそうな大仰な被り物を持って目をキラキラさせている。本当にパラレルワールドを観測できるというなら世界的大発明である。  しかし、ただの戯言だと切り捨てられないのは教授が世界的な天才だからだ若干二十四歳にして常識を覆す様な理論や発明をいくつもしている。それの3倍ぐらいは失敗もしているのだが。 「二つあるって言う事は、俺と教授が被るんですか?」 「そうだね。世界旅行としゃれこもうじゃないか」 「副作用とかないですよね」 「……ふー」 「できもしない、口笛を吹こうとしないでください」  大きくため息を吐く。でも、結局俺は手伝うのだろう。惚れた弱みと言うヤツだ。諦めてヘッドギアを受け取って近くのソファに二人で寝転ぶ。ヘッドギアがゴツゴツして眠りにくい。 「どうして、こんな形なんですか?」 「カッコイイから」    身も蓋もない返事だった。 「どうして、パラレルワールドを観測しようと思ったんですか?」 「量子力学の中でミクロ粒子は粒子でありながら波動としても振舞うことは知っているよね」 「ええ。ミクロ粒子は観測するまでは実態の無い波動状態であり、観測すると収縮して粒子になるという話ですよね」 「ああ。それを量子力学の正統的解釈と呼ぶ。しかし、その理論に反対する意見もある。観測とは無関係に自然の事物が実在するという実在論だ」 「私が見ていなくても、月は確かにある。ですか」 「そう、アインシュタインはそう言って実在論を提唱していた」 「その話と、パラレルワールドの関係は?」 「突然だけど。私は君の事が好きらしい」  本当に突然の事に息が止まる。 「しかし、私には好きという気持ちがはっきりと理解できない。だからあらゆる世界の君と私を観測して、私が君を好きなのかを確認したい」  言葉を失う。コイツは何を言っているんだ。 「そして、観測してから初めて君が好きになるのか、観測しなくてももともと好きなのかを知りたいのだよ」  ドヤッと音が聞こえるぐらいの顔で親指を立てながら、教授が言った。 「では、いざ行かん。新たな世界へ!」  教授がいかにもなスイッチを手に持ってボタンを押す。俺はようやく呆けた状態から立ち直って言葉を口に出そうとする。 「それって結局、どちらにしても好……」  俺の言葉は結局途中で途切れて意識が持っていかれる。  本当にこの教授は人の話を聞かない。
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