12月 出会い

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12月 出会い

 ナツミと別れ4ヶ月が経ち、世間はクリスマスムード一色となっていた。前回までにさらけ出してきたように、春先に付き合い夏に別れる恋愛をしてきた俺にクリスマスに恋人と過ごした経験はない。ここ最近のクリスマスはロックフェスに行っており、寂しい現実から目を背ける姿勢さえある。  東京に着任して1年が経ち、仕事にも慣れてきたころ、世話親にあたる先輩から突然の合コンの誘いがきた。連絡を受けたのは朝の通勤電車であったが、テンションは爆上がりした。「合コンなんていつぶりだ!というより、しっかり初対面の女性に出会うのっていつぶりだ!」とにかくワクワクしていた。テンションに合わせるように聞いていた曲もアップテンポのものに替えた。そのまま浮かれた顔をして出社したことが原因なのか、俺の顔を見るなり、先輩が声をかけてきた。「あんま期待すんなよ。」先輩は当時1年以上付き合っている彼女がいて、俺と真剣度が違うんだと思っていたが、どうやらそういうことではないらしい。合コンは5対5で、先輩も幹事の男しか知らない。幹事の男とも合コン以外では会うことはなく、彼が開催する合コンに参加するのも5回目。毎回5対5を用意しており、なんなら小さな街コンのようだ。女性も男性もレベルがそんなに高くなく、どうもノリ気になれないらしい。彼女がいない時はそれでも毎回楽しみにしていたが、今はお前みたいに高揚できないよと語られた。  それを聞いて、俺はテンションが少し下がったが、それでもとりあえず先輩の話をいいとこどりをして、5人の女性に出会える、ライバルになる男のレベルはそんなに高くない、そこだけを念頭に仕事をいつもより早く切り上げた。先輩と一緒に職場を出て、開始まで時間があったのでバーで作戦会議という名の0次会をした。酒も入り、俺が今日1日どれだけ楽しみにしていたかを語った。先輩もあまりに俺が楽しみにしているので、テンションに釣られて、この時には少し浮き足立っていた。  そして、合コンが始まった。女性のみなさんを敵にまわしてしまうかもしれないが、正直、全員微妙!!!(笑)合コンなんてこんなものである。男性の方も微妙なので、女性としても同じ気持ちだったと思う。特に俺はひっかかる部分があった。5人の共通の職業、保育士。この職業が苦手だ。(保育士の方すみません。)出会いの無いことは分かるが、こういう場に本当によくいるイメージがある。なんなら保育園に行くより合コン会場に行った方が保育士に会えるのではないか。(本当に暴言すみません。)そんなイメージもある上で、さらに最後の彼女のナツミが保育士だった。ナツミはよく仕事の話をしていた。愚痴ではなかったが、あの子がかわいい、この子がこんなこと言ってくれた、などの話は1週間も聞いていれば、すぐに飽きてしまう。かなり口が悪いが他人の子どもにそんなに興味を示せない。ナツミは口数が少ない方で、たまに話す内容がそのようなことだったので、正直しんどかった。そのような経緯があり保育士という職業に苦手意識がある。  二次会なんてもちろんなく、テンション低めに先輩と電車に乗った。「だから期待すんなって言っただろ。ラーメンでも奢るから元気だせよ(笑)」先輩とラーメンを食べながら、強いて言えばどの子が良かったかという話になり、それぞれ気になる子に連絡をした。先輩の方は連絡がきたが、俺は来なかった。強いて選んだ相手がそのような対応だったので、イラついた。後日やっと連絡が来たが、もちろん無視した。  そんな何の実りのない合コンの翌日の朝、思わぬ相手から連絡がきた。どの女性も微妙なので、テンション上がることもないだろうと思っていたが、相手の名前は幹事の男だった。その方の名前はコウタさん。なんと今日も合コンをするという。そして、人数が足りてないみたいだ。合コンでまさか、自分にとってプラスになる男に出会うなんて思ってもいなかった。すぐに先輩に話し、参加する旨を伝えた。また俺の顔を見抜いた先輩は「あんま期待すんなよ、それとコウタさんには気をつけな。」次の日の合コンは先輩は予定が合わず、もはや昨日知り合ったコウタさんしか知らない状態で会場に向かった。  男性5人が先に揃い、年齢も30すぎで正直昨日以上に微妙だった。顔もそうだが、話も面白くなく、これは我ながら女性が不憫だと思った。このメンバーだったら俺が繰り上げで1番になれる。他の男性もコウタさんとしか認識がなく、スタート位置も同じ。これはいけると高ぶった。しかし昨日の女性、そして今日の男性メンバーを見る限り、相手にも期待できない。そう思っていた。  そこに5人が登場。全員、、、、、、かわいい!てか美しい!!なんだこれ!!まじかよ!!男やばくねーか、男これじゃ絶対まずいぞ、帰られる!これが最初の感想だ。一気に緊張してしまった。他の男もテンションが上がり浮き足立って喋り出しているのが分かった。みるみる曇りがかる女性の顔。俺は大学時代の性格を引っ張りだし、サークルの勧誘のために1年生の女の子たちと話すように必死に笑いをとりに行った。顔じゃ勝てないならせめて面白いという存在で、これまでの人生で1番学んできたことの集大成だ。それが合ってるかどうかはわからない。けどそれしか出来ないなら、それなら出来ると思っているなら全力で頑張れ俺。とりあえず、目の前の2人を楽しませることに集中した。  5人の職業は舞台女優であった。だからこのオーラ。しかもバイト等をしないで、それ一本でやっているというレベルだ。ますますテンションが上がり絶対に次に繋げたいと思った。その中にいたのが本作のヒロインのユカリさんである。ユカリさんは2歳年上だったが、年下に見えるような明るさと元気さがあった。正面に座っていた女性で、容姿も中身もドストライクだった。ただ、その場はユカリさんにロックオンにすることなく、とにかく女性にとってこの最悪な合コンを少しでもプラスにしなくてはいけないという、おこがましいにも程があるが一種の使命感に満ちていた。席替えが行われ、ユカリさんを含む2人の席から残りの3人のところに移動になった。  3人の顔はやはり引きつっていた。これは瀕死状態だ。3人の中には女性幹事が含まれており、この方が怒ってしまえば合コンはきっと終了してしまう。舞台女優なんて普段どんだけの男からアプローチされているか分からない。こんな男5人組すぐに終わりにしたいと思っているだろう。そんな俺の必死な姿勢が伝わったのか、幹事の女性は「君面白いよね、飲もうよ」と誘ってきた。年齢としても10歳上だったその女性は完全にマウントをとっていたが、これに乗るしかないと思った。  そんな3人と話していると、なんとユカリさんが席を移動してまた俺の前に来てくれた。めちゃくちゃテンション上がった。話もめちゃくちゃ合い、俺は何年ぶりか分からないがガッツリ恋に落ちた。舞台の大変さや、普段の趣味など色々話してその日は解散になった。コウタさん曰く二次会はしない主義で、そのあとは各々に任せるらしい。この人のポジションはなんなんだと思ったが、とにかく感謝しなくてはいけない。この日から職場と家とジムの行き来だった俺に恋というエッセンスを加えてくれたのだから。(表現がキモいが、これくらい俺は高ぶっている)。  すぐにユカリさんに連絡をとり、素直にまた飲みに行きたい旨を伝えると、いいよと言ってくれてその日から毎日連絡を取る関係になった。1日2、3通ではあったが、合コンでは話せなかったプライベートの話もして、ますます虜になっていった。通っていたジムに加えパーソナルトレーニングも始め、明確な目的ができたため、自分磨きにも力が入った。自分でも単純だと思う。  年内に都合がつく日がなく、次会うのが年明けになってしまったが、基本ポジティブな俺はその日までは確実に連絡のやり取りができると考えるようにしていた。  ユカリさんとの出会いによって毎日が楽しくなった。しかし、舞台女優という特殊な職業に少しずつ苦しめられることになる。
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