夏明けて

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 今思えばあの頃のわたしにとって別れは突然すぎた。 何も理解しないまま、これといった感謝も伝えぬまま。  知らぬ間に祖父は病気をしていた。祖父の言いつけだろうか、病院には行かせてもらえなかった。 たった一度だけ、父に懇願して連れて行ってもらったお見舞い。 「なして連れできだ」そう口が動いたように見えた。 ゴツゴツした大好きだった手が握り返してくれなかった。 それがなんだか寂しくて私にとってショックだった。 記憶とは忘れてるようで人はよく覚えているものだ。 でも匂いも、声ももう思い出せない。 ふとした時、辛くて寂しい時、遺影を見つめては会いたいと そう願った。  きっとこの先もこの後悔は連れ添うもの。 大切な人が居る今、同じ後悔をしないように生きたい。 記憶は儚くきっと忘れてしまったことの方が多い。 それでも祖父がくれたものは私の中にある。  お水と朝ごはんを供え、お仏壇で手を合わせる。 手前に置かれた小さな台には、姉が産まれる前にやめたという煙草と大好きだった焼酎。 「夏が明けるねぇ」そう言った祖母は、 お盆を終えて役目を果たした馬と牛を、そっと海に流した。
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