夏明けて

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 夜が明けてきた頃、ふと目が覚めた。 近所の犬が朝から大声で吠えていた。 スマホに手をかけると、8月16日時刻は4時半。 お盆も終わる。  わたしは夢を見ていた。 幼い頃の、何も知らない私が幸せだった頃の。  家の前の海がきらきらと朝日に反射して眩しい。 カモメの鳴き声。父が船を巻く音。活きのいいイカ。 真夏の朝とはいえ、とても暑い日だった。 わたしの地元は小さな漁師町で朝はいつも漁に出ている船が家の前から見える。 「みなさんおはようございます海柳町(みやなぎまち)役場です…」 6時をまわると町の有線放送が響く、漁が終わる合図だ。 しばらくして父たちが帰ってくる。 磯臭い匂いと汗の匂い。小さい頃はこの匂いにひたすら「臭い!」ってはしゃいでたっけ。 少し黄ばんだ白いタオルを頭に巻いた祖父が帰ってくるなり私の頭をわしゃわしゃと片手で撫でる。がははと笑っている、その日はよく()れたのだろう。 祖父はもともと強面の持ち主で笑うことも少なく、声もなかなか荒々しい。 姉弟は怖がってあまり祖父には寄らなかった。 でもわたしは祖父が大好きだった。  「おめだげだはんでな。」と言い、こっそりくれた鮭とばとガリガリ君は今でも忘れない。 おてんばだったわたしを父はよく叱った。 庇ってくれるのはいつも祖父だった。 「はとぽっぽ」に「さくら」、「ぞうさん」「七つの子」。 たくさんの童謡を教えてくれたのも、 お人形にめんこ、なんでも遊んでくれたのも、 怒られてしょげている日いつも散歩に連れ出してくれたのも、全部、、。 今日の夢は大好きだった祖父でいっぱいだった。
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