※1 始まりの日

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視界に入るのは、壊れ果てた街でも化け物でもなく、ムチムチぷりぷりボディを惜しげも無く晒している人妻系アニメキャラのフィギュア。 (相変わらず目覚めは最高のようだな) 下半身に潜む息子からも朝の目覚めを感じ、体の状態が良好であることを確認すると、そのまま起き上がりベッド横の棚から眼鏡をかける。 (あぁ……今日は休みだったか) 携帯の画面を開きスケジュール帳アプリを開くと大きな文字で「謎のクソゲーを買う!!」と書かれていた。 一月前、唐突に発表された無名のゲーム会社「EoI・C」からの新作「侵略獣者」。 前情報は一切無し、発表した当日に予約したものしか買えず、そこらの限定版のゲームよりも高額という、謎の地雷臭を漂わせている作品であったが俺は予約せずにはいられなかった。 今日はそんな謎に包まれたゲームを買いに指定された場所へ向かう予定だったのだが……。 (指定された時間、もう過ぎてんじゃん) 昨日のバイトの疲れからか指定されてた10時を過ぎてしまっていたようだ。 このままではゲーム会社の人に迷惑がかかると思い、急いで公式サイトに掲載されている電話番号に連絡を取る。 プルルルルッ、プルルルルッ。 電話のコール音以外何も聞こえない室内に、爆音とも取れる程の大きな音と、ギリギリ立っていられるほどの振動が襲いかかってきた。 「どわぁああああ!!」 俺が驚きの声をあげるのと同時に、コール音が止まり電話が繋がった。 「もしもし、こちらEoI・C総合受付となっております」 「あっ、もしもし、本日そちらの侵略獣者を受け取りに行こうとしていた者なのですが、寝坊してしまい時間通りに行けなくなってしまいました。申し訳ございません」 「……かしこまりました、少々お待ち下さい」 受付はそう言うと保留音に変更してしまう。 まあ、最悪金は払ってないし誰か他の人に買われてしまったのであればそれはそれで構わないだろう。 (それにしてもさっきの音から随分外が騒がしいな、また揺れなきゃいいんだが) 突然揺れた時のため掴まれるものをつたいながら外が見える窓の方へと向かう。 カーテンを開けようとしたところで保留音が止まり、先程まで聞いていた受付の可愛い声ではなく、野太く、RPGでタンク職にでも就いてそうな男の声が聞こえる。 「残念だが、君が受け取るはずだったモノは既に他者に渡してしまった。こちらとしても人手が欲しくてね……申し訳ない」 「い、いえいえっ!元々自分が寝坊なんかしなければよかっただけなので、今回はただ謝ろうと「そこでだッ!」ひぇっっ!!」 「ごほんっ、驚かせてすまない。このままでは通話を切られそうだったのでな」 確かに謝ったあとはすぐにでも電話を切ろうとしていたが。 それに勘づいて大声で止めるとは……ホントのホントにヤバい所に電話をかけてしまったのではないだろうか。 「君さえ良ければなのだが、君に……いや、君以外に提供したモノのオリジナルを受け取って貰えないだろうかと思ってね」 「えっ!?」 謎のゲームのオリジナル版?どういうことなのだろうか……。 考えられるのは開発段階の未完成品とか、それこそ他のものとは区別はつかないが、ホントの意味での一枚目のディスク。 どちらの意味だとしても興味がそそられるし、向こうの善意なのだから有難く受け取っておきたいところだ。 「ぜっ、是非受け取ら「そうかっ!!受け取ってくれるか!!」せ……て。はい」 その後は受け取りの場所が記載されたマップの画像と「道中気をつけろよ」との言葉を受け取り、この日の為に新調した外行きようの着替えを済ませた。 (一体どんなゲームなのだろうか) 久しぶりに感じる新しいゲームへのワクワク感が俺の足を軽くしてくれているかのように前へ進む足が早い。 そして、意気揚々とアパートのドアを開けた先にあったのは夢のような景色だった。
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