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「……協力するって言ったじゃん」
春香が、ぼそりと言った。
涙に濡れた声だった。背を向けたままの彼女の肩はひどく震えている。
「……応援してるって、言ったじゃん」
はくはくと口を動かしても、声は出ない。頭の奥がスーッと冷えていき、目の奥が熱くなっていく。
春香。
音にならない声で名前を呼び、手を伸ばした。
「うそつきッ!!」
振り返った彼女の顔には、あの笑顔の欠片はどこにもなかった。
それは、私の心を砕くには十分すぎる言葉だった。
手から力が抜け、落ちた鞄からスケッチブックが顔を出す。春香との会話を綴った宝物なのに、あっという間に雨に濡れていくのも気にならない。
私は、春香の目から目が離せなかった。
嫉妬、憎しみ、拒絶。
そんな色を宿した瞳に、私の世界は漆黒に染まった。辛いのは春香の方なのに、私の方がひどく傷ついた気がして虚しさに苛まれる。
春香がその場に崩れ落ちて大声で慟哭した。穏やかで明るい少女の面影はどこにもない。制服に泥をつけ、乱れた髪は雨で軋んで白い肌にへばりついている。大きな口を開けて涙をボロボロと流すその姿は、お世辞にも可愛らしいとは言えなかった。
私は、その場にへたりこんだ。
何もかもが、嫌になった。
私の今までの努力は何だったのだろう。妄信的に春香に尽くしてきたのに、その日々が今はどうでもよかった。なかったことにしたかった。
全てを、やり直したくなった。
でも、悪いのは私だ。
私が、話せないのが悪い。
春香の想い人を奪ったのが悪いのだ。
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