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私はスケッチブックを手に取った。開けば、春香と会話した時の他愛もない言葉が幾つも並んでいる。どのページにも書かれている兎は、雨で滲んでドロドロに溶けていた。
私は、一ページ千切った。その日の思い出が、うるさい叫び声をあげて泣き喚く。
また一枚、もう一枚。
鉄の味がするほど唇を噛みしめて、スケッチブックのページをぐしゃりと潰しては破いていく。
淡い恋も、友情も、全てなくなってしまえ。
そうすれば、少しは楽になれるだろう。
聞こえるのは、耳を塞ぎたくなるような叫び声。私の目からはいつまで経っても涙は零れない。泣き叫びたくとも、声は少しも湧き出てこない。
お前は泣けるのにな、と必死にスケッチブックを破きながら私は吐き捨てた。
ビリビリと、春香との思い出が彼女の泣き声に重なるように泣き喚く。
その声なき号哭が、紛れもなく私の心の叫びだったのだ。
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