ダッシュ!ダシュ!猛ダッシュ!

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 案内図(どっから印刷してきたんだろう)を取り出し、赤ペンでルートをずいずいと引いていく彼女。気合の入り方がヤバすぎる。 「で、楓花をこの後のお仕事で雇いたいわけ!大切な仕事よ、ミッション成功の鍵を握っているのは楓花と言っても過言ではないわ!」 「あ、そこで私が出てくるの……」 「開場直後にダッシュして、あかぽん屋さんの本を入手できるのが理想なんだけど……問題があるの。にゃるにゃるさんが離席していて、会場直後にはいない可能性があるのよ。彼女は売り子を雇わないから、本人が他の本を買いに行っていたり、あるいはトイレや食事で立っている時はサークルが空席になってしまうのよね。その時は本を買うことができないし、空席の前に並んで待っていることはマナーで禁止されているからできないのよ。ていうかコミピアのマナー最近厳しくなりすぎよ、警備員さんにすぐ声かけられるんだもの。昔はバーゲンよろしく邪魔者の服ひっつかんで転ばせたり押しのけて突進しても怒られなかったのに!」 「暴力反対!普通にダメだから絶対!」  むしろ、そんなバーゲンのオバチャンよろしくアホなことをするオタクが多かったせいで、警備員さんを雇って目を光らせるハメになったのではあるまいか。私は心の中で盛大にツッコミを入れるしかない。  ていうか、最近行っていなかったが今のコミピアってそんなにヤバいのだろうか。そんな殺意に満ちたオタク達を体張って止めなければいけない警備員さん達が気の毒すぎるのだが。 「私に同行してあかぽん屋さんのサークル席を見た時!もしにゃるにゃるさんが不在だった場合は、貴女はそこで待機してて欲しいの。並んではいけないから、あくまでその付近でにゃるにゃるさんが戻ってこないか張り込みする役と思って貰って構わないわ」 「刑事ドラマかーい!」 「かっこいいでしょ?随時状況を私のLANEで連絡するように!その間に私は、次に気になってたサークルさんに走って片っ端から新刊をゲットしてくるから!時間の短縮もできる、確実性もある、完璧な作戦よさすが私ィ!」 「うおーい……」  滅茶苦茶すぎる。これはもう、ツッコミを放り投げるべきだろう。というか、ツッコミどころ多すぎてもはや匙を投げるべきと判断した。完璧というが、少々物理に頼りすぎてはいないだろうか。 ――まあ、本人が楽しいならいいけどさー。  私はのんびり、別ジャンルの新刊を通販で買うことにしますね、とは心の中で。即売会は楽しいが、あの混雑と騒乱の中を生き抜ける自信が自分にはないのである。  まあ、なんだかんだ言って、一万円する高級スイーツバイキングを奢って貰えるからとホイホイ雇われた自分にはもうどこういう言えないのだが。  私にとっては萌えも大事だが、美味しいものも大事なのである。お腹も人生も、やっぱりダブルで満たされていなくては。
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