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***
さて、そんな理代子の負けられない戦い。
で、どういう結果になったのかと言えば。
「うわああああんインフルエンザのあほおおお!恨む、恨むわ!私はインフルエンザに対して丑の刻参りを敢行するううう!」
「うん、わかった。落ち着こうね里代子ー」
バンバンとテーブルに拳を叩きつけ、絶叫する里代子。
戦いにはまさかの結末が待っていた。そう、里代子の愛してやまないあかぽん屋さんのにゃるにゃるさんが、よりにもよって数日前にインフルエンザに罹り、サークルを急遽お休みすることになってしまったのである。いくら事前にお金を払ってサークルスペースを確保していたと言っても、インフルエンザになってしまってはイベントに出ることはできない。
ツニッターには、彼女の丁寧な謝罪文が掲載されていた。里代子もにゃるにゃるさん本人を恨む気は全くないのだろう。恨むべきは彼女を休ませたインフルエンザウイルスというのは真っ当な考えだが――しかし、インフルエンザ相手に丑の刻参りって、どういう発想なんだろうか。効く余地あるのか、それ。
「まあ、今回は仕方ないよ。病気はしょうがない。軽度で済んだって話だし、良かったと思うしかないよ。出す予定だった本は、次のイベントに回すって言ってたし……ね?」
あんまりにも落ち込んでいる里代子が不憫になり、私はそう言って慰めることにする。確かに、にゃるにゃるさんが休みになってしまったことで、里代子が楽しみにしていた新刊をゲットすることは叶わなくなってしまった。けれど、何もにゃるにゃるさんが亡くなってしまったわけでもないし、ジャンルへの愛が尽きてしまったわけでもない。
楽しみが少し先になっただけのこと。そこまで悲観することではないではないか。実際、にゃるにゃるさんも次のイベント参加予定を告知している。残念ながら二ヶ月後のイベントは大阪なので、自分達が行けるとしたら三ヶ月後の東京開催のイベントの方だろうが――。
「……楓花」
がばり!と彼女は思い切り顔を上げた。そして。
「行くわよ、大阪」
「ヘ?」
「大阪展示ホールの対策考えるわよ!遠方だろうと未知の戦場だろうと関係ない、オタクは諦めたらそこで萌え終了なのよおお!」
「はいいいい!?」
意味わかりませんが!と私は絶叫する。
どうやら、彼女の負けられぬ戦いは、これからもまだまだ続いていくらしい。――私にとっては、やや迷惑なことに。
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