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この鉱石ラヂオを手に入れるキミへ 実をいうと、これは鉱石ラヂオではない。おじさんは今年の6月、爪を切ろうとしてふと、超光速通信の理論を思い付いた。この発見は、今までの古典力学はおろか、量子力学の根幹さえをもひっくり返すような大発見といえよう。場合によってはノーベル物理学賞をおじさんが受賞し、そればかりか、人類の科学が飛躍的な大発展を遂げることとなるかもしれない。だが、ニュートンからアインシュタインに到るまでの先人たちの、数百年に亘る物理学にまつわる労苦を、一介のアマチュア研究家たるおじさんが、たった一カ月でひっくり返して良いものだろうか?おじさんはそう思い悩んだ。おじさんは、近所の少年少女たちに算数・数学・物理、および錬金術を教える、一介の塾の先生に過ぎない。そんなおじさんが、アインシュタインを踏み台にするどころか、彼の理論を足蹴にするなど、おこがましいにも程があるだろう。そこでおじさんはみずから発見した理論を基にした超光速通信機を、単なる少年少女たちのおもちゃにしようと思う。おじさんのこの説明を信じるか信じないかは、キミ次第である。もしキミがおじさんの説明を「ばかばかしい」と思うのならば、この装置を「鉱石ラヂオ」として使用してほしい。それでは、キミのご多幸を祈る。 昭和32年7月 浦上数学・物理教室代表 乙一(きのとはじめ)
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