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「な、何だこりゃ?」  この手紙を読んで、ぼくは目を剥いた。この塾の先生、頭がおかしいんじゃないだろうか?まあ、学者には変わり者が多いって言うけれど...。  そんなふうに考えている最中、「ガンガンガン」と窓を叩く音がした。四畳半しかないぼくの部屋は、道路に面している。磨りガラスの向こうに、道路に佇んでいる人影が見える。ぼくは「誰だろう?」と思いながら、窓を開けた。  窓の向こうには、真ん丸な眼鏡をかけ、亜麻色のお下げ髪(お下げの部分には、包帯のような布を巻きつけている)で、編み笠を被り、背負子に大きな楊行李を載せ、卸したてのように真っ白な半袖の上着に、灰色の裾の広がったズボン、そして腰にはジャンバーのようなものを巻き付けた、何とも奇妙な体裁の、ぼくと同い年と思われる女の子がいた。 「タキオン受信機に入ってきた、お前さんからのメッセージで呼ばれた」  開口一番、彼女はそんな奇妙なことを言った。当然のことながら、ぼくは面食らった。 「な、何を言っているんだよ!?ぼくはこのヘンテコな装置をたった今完成させたばかりだけど、まだ何もやっていないよ!」 「物質にせよ、情報にせよ、光速を超えると因果律が逆転する。つまり、『風が吹いた結果、桶屋が儲かる』のではなく『桶屋が儲かった後で風が吹く』ようなもの」 「いんがりつ???」  女の子は良く分からないことを言った。 「上がらせてもらう。ごめんよ」  女の子は背負子をドスン!とぼくの部屋の中に降ろし、次いでひょい!と部屋に上がり込んで、その後にブーツのような靴を脱いだ。 「キミは、一体何者なんだ?」 「チキュー星人から見ると、わたしはウチュー人ということになる。そしてわたしから見ると、お前さんはウチュー人とも言える」 「つまり、キミは宇宙人…」  彼女は、本当に宇宙人なのだろうか?それとも、昔読んだ絵本に出てくる「ドン・キホーテ」という騎士のように頭がおかしい子なんだろうか?などと思っていると、女の子はこう語りだした。 「わたしは、あらゆる知性体の――それがたとえ機械であったとしても――認識を意のままに操作できるよう、遺伝子レベルで改造されている。たとえわたしが青くて丸い存在であったとしても、角が生え、半裸で空を飛ぶ存在であったとしても、知性体はわたしを当該共同体内部の異分子と看做し、排斥することは出来ない」 …何だかよく分からないが、要するにぼくらチキュー星人が宇宙人を目の当たりにしてもビックリしないように、催眠術のようなものをかけている、ってことだろう。 「キミがチキュー星に来た目的は、そもそも何なの?まさか、チキュー星の侵略が目的とか…」  ぼくは半ば冗談交じりで訊いてみた。 「話は長くなるが、わたしの身の上話を兼ねて聴いてほしい」  女の子はそう前置きをして、次のように語った。
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