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あれから50年以上の歳月が流れた。
僕は現在、ミッション系の孤児院を運営している。庵はその50年の間に3センチメートルほど背が延びた。そして彼女は周囲の人間の認識を操作しているため、「宇宙人がチキュー星にいた!」などとマスコミを騒がせることなく、他の身寄りの無い子どもたち、事情があって親許に居られない子どもたちと遊ぶ日常を過ごしている。尤も、庵がハマっている遊びというのが花札・麻雀、そして「競馬の予想ごっこ」というのが気になるが…。
そんな庵だが、彼女は最近アマチュア無線を始めた。ギャンブル関連の遊びではなく健全な趣味を持って何より…と言いたいところだが、ここ数ヶ月間、彼女は学校から帰ったら他の子どもとも遊ばずに無線機と睨めっこばかりしている。
「なあ、庵、君は最近アマチュア無線と睨めっこばかりしているが、どうしたのかね?」
ある日、僕は堪りかねて彼女に訊いてみた。
「20億年前、わたしはアマチュア無線にメッセージを送った。お前さんへの返答だよ」
その言葉が終わるか終らないかのうちに、ザザー、ピー、という雑音と共に何やら言葉が入って来た。
その声は、まぎれも無く庵の声だった。そしてその声を聴いた庵は、初めてパンビタンを口にした時のように顔をほころばせた。
「やった!20億年前に送った返答が、遂にチキュー星に届いたのよ!チキュー星の言語の解読に約50年かけた後で、わたしはタキオン受信機に入ったメッセージの指示に従ってアマチュア無線を送ったの。それが遂に届いたのよ!」
超光速通信機によるものではない、単なる電波によって20億年もの歳月をかけて到達したメッセージは、このように繰り返した。
「ハロー、チキューセイカスヤグンワジロマチノ『オマエサン』トヨバレルショウネンノメッセージヲジュシンサレタ。アマチュアムセンニテヘントウメッセージヲオオクリ。ハロー、チキューセイカスヤグンワジロマチノ『オマエサン』トヨバレルショウネンノメッセージヲジュシンサレタ。アマチュアムセンニテヘントウメッセージヲオオクリ。ハロー...」
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