第27章 行かなきゃいけない

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「でも…あんたは待ってるんやろ?」 
梅田はやけに深刻そうにじっとこちらを見つめながら言う。
 「もう、太郎が死んで五年やで?このままずっと待ち続けるつもりなん?」
 彼女の発した「死」というワードは、ここ5年の間ずっと俺が目をそらしてきた事実ではあった。
 5年前、上野が力を与えたその2年後、太郎は家族に見守られながら静かに息を引き取った。思っていた以上に長生きだったし、猫は死に姿を飼い主に見せないというので、死に目に会えたこともある意味幸運なことだったのかもしれない。しかし、その出来事は自分が思っている以上に精神的な負担を与えることになった。
 太郎を飼い始めたのは俺が小学校1年生の頃。つまり、10年近く太郎を飼っていたことになるわけなのだが、その間の記憶はほとんどなかった。正確に言うと「飼っていたこと」については覚えているけれど、そこに付随して発生するであろう思い出や印象深い出来事についてはまったくもって頭の中に残っていなかったのだ。だからこそ太郎がもういないという事実はことさらに俺の心を重くしたし、当時は結構落ち込んだものだった。それ故に今でも太郎が今自分のそばにいないということは正面から受け止めたくはないことだった。
 それがおそらく俺が今もなお太郎を待ち続ける理由なのだと思う。
 俺は太郎に会いたいのだ。だから待ち続ける。
 でも…俺から何かをアプローチするのは何か違うような気もする。
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