第25章 気持ちは誰に向いてる?

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ーーー 気がつくと、俺はとある場所に立っていた。
 「ここは…」
 あたりをキョロキョロと見渡してみる。見たところ住宅街内にあるただの歩道兼車道のど真ん中に俺は立っているようだった。太陽の高度が少し下がっているように見えることから、3時から4時くらいの時間帯だろうか。
 狭い道のためだろう、後ろからゆっくりと徐行してきた一台の車が小さくクラクションを鳴らした。俺は道路の端によりながら、その車が通り過ぎていくのを見送った。
 さっきまでこんなところにはいなかったはずだ。どうして自分はこんなところを歩いているのだろう。
 自然と俺の頭にはそんな疑問が浮かんできた。そして、もう一度あたりを見渡してみる。
 と、その過程でふと自分の手に握られたものの存在に気がついた。それは透明のビニール袋に入れられた食べかけのコッペパンだった。
新たな疑問がまたも生まれる。自分はどうしてこんなものを手に持っているのだろう。どちらかというとパンはあまり食べない方だと言うのに、見た感じ食べかけのコッペパンを後生大事そうに握っているその手ははまるで小学生のようだった。
 というか、あれ?なんかおかしいぞ。
 なぜだろう。普段よりも見える景色が全体的に大きいような気がする。ふと通り過ぎていったサラリーマンがやたらとでかく見えた。まるで自分が巨人の世界に紛れ込んでしまったのではないかと思うくらいに。
 と、その時、不意に左右の肩に平等の圧力がかかっていることに気がついた。その革のような匂いに懐かしさを覚えると、俺はすぐさまその背中に背負っていたものを下ろした。
 それは黒のランドセルだった。
 「なんだこれ…夢か」
 飛び出る独り言の声もいつもより1オクターブくらいも高かった。改めて視界に入った自分の手は小さく、何気なく触れた顔もいつもよりもツルツルしている。
 そしてその時ふと、カーブミラーに映り込む自分が見えた。
 そこには完全無欠の小学生が、間抜け面をぶら下げて突っ立っていた。
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